7.かみ 「短い髪が好き。あなたって本当に短い髪が似合うよね。ステキ。かっこいい。大好き だわ、あなた」  彼女はそう言って俺の髪を触る。柔らかく、小さな手。ほんの少し冷たい。彼女はニ ッコリ笑い、本当にかっこいいなあなんて言う。彼女は自分のそういったいい感情を素 直に伝える人間だ。だからうれしいことがあればうれしいと笑顔で言うし、ありがたい 時はとびきりの笑顔でありがとうと言う。俺は彼女のそんな所が好きだ。  俺は彼女の事を守りたいと思う。俺は今でも覚えている。まだまだ友達だった頃の彼 女が流した涙を。相談事があるの。直接会って聞いてほしいなあ。彼女がそう言ったの で俺は彼女と対面し、話をきいた。家族のことだった。最初、彼女は言うのをためらっ ていた。こんなこと、話していいのかなあ。友達のことじゃなくて、家族のことなの。 それでもいい? 遠慮がちに聞く彼女。俺はどんな相談にでも乗ってやるぞという気持 ちでやってきた。だからなんだって聞いてやるよと言った。彼女はうれしそうに笑うと 家の事情を話した。家族のことを話す彼女の口元は笑っていた。だけど目は潤んでいた。 そして自分の存在のことについて話すとき、彼女はたまっていた涙を流した。俺が守っ てやらないといけない。弱い女なんだなあと思った。  俺はそんな彼女を抱きしめてやりたかった。だけどできなかった。友達だったから。 抱きしめることができる友達じゃなかったから。俺は今でも悔やんでいる。あの時、彼 女を抱きしめていれば、きっともう少し楽になっただろうに。過ぎたことを悔やんでも どうしようもないことは分かっている。だけどこの事を思い出すといつもそう思ってし まう。  彼女はよく笑う。いつも笑顔だ。目が合えば小首を傾げて微笑む。俺が自分の顔を彼 女に見せることなんて少なかったけど、きっと彼女はずっと俺のことを笑顔で見つめて いたのだと思う。 「君の髪は本当にキレイだな。さらさらしてる」  俺は彼女の髪を見て言った。俺は彼女の顔をあまり見てこなかったなと思った。彼女 の顔を見る。うれしそうな顔をしている。ありがとうと満面の笑み。かわいい。何かを ねだるような目。俺はやれやれと思いながら彼女の頭を撫でる。彼女はうれしそうに頭 を俺の肩にのせる。目をつむり、甘える。 「大好き」  ああ。君は本当にキレイになったよ。出会ったときよりも。  彼の視点で。こっちの方が落ち着いてますね。まあ、わたしの視点だと 「よね?」「じゃない」「なんて」とか、えらく話し言葉ですからね。まあ、こっちもそうですが。 うん。うん。