11.ぐらす  ひんやりと冷たいグラス。そこに冷たいお茶を注ぐ。グラスの中に入っていた氷がカ ランと音をたてる。窓から太陽のひざしが入る。キラリと光るグラス。水が真っ白に見 える。コップを触る。表面に水滴がついている。手が濡れる。ゴクリとひとくちお茶を 飲む。ひんやりとして冷たい。コップを机におく。  外ではセミがミーンミーンと元気よく鳴いている。たった一週間の命。その間にセミ はずーっと鳴き続ける。疲れないのかしら。疲れないものだけが生き残る、競争世界な のかしら。  わたしは真正面に座っている彼を見る。額に首に腕に汗をながす彼。あちーだなんて 言いながらひんやり冷たいグラスを手に持つ。顔が和らぐ。ふう、と息を吐き、グラス にくちをつける。ゴクリ、ゴクリとここちよい音をたてて飲む。音が出るたびに動くの ど。わたしはそれを見つめる。ぷはあと大きく息をはき、コトンとグラスを机におく。 手の甲で唇を拭い、腕を後ろにのばし、体重をかける。窓の外を見つめる。彼の眼鏡が 光を反射する。彼の顔を見つめる。まつげが茶色に見える。多いし、長い。わたしの彼 の好きな所の一つのまつげ。  彼はTシャツのえりもとを掴み、胸の中に風を送り込む。彼の鎖骨が見える。はあ。 溜息が出る。そんな色っぽい姿を見せないで。そう思ってわたしは彼から視線をそらす。  しばらくそうしていると彼が隣りに座ってきた。わたしの髪を撫で、あごを掴んでむ りやり自分の顔を見せる。彼との顔が近い。ドキドキする。じっと見つめる。目が、キ レイ。吸い込まれそう。どうしてこの人はこんなにキレイな目をしているんだろう。わ たしはうっとりと彼の目を見つめる。彼の乾いた唇が近づく。唇を重ねる。離す。照れ 隠しに彼の胸に頭を埋める。彼は優しく頭を撫でてくれる。彼のにおいがふわりとする。 ここちよい。彼の胸の音がきこえる。トクトクトクとはやい。風が吹く。チラリと彼の 脇の隙間から窓を見る。白いカーテンが風に揺られ、なびている。  ああ。暑い夏。暑くても、わたしは彼とこうくっついているのが好き。  グラスの中の氷がカランと音をたてる。わたしはそれに手をのばし、自分の頬に当て る。冷たくて気持ちいい。目をつむる。グラスを掴む手の親指に柔らかい物が当たる。 目を開く。彼の頬。彼もグラスに頬をつけている。お互いを見合わせ、ニコリと笑う。  夏。今年は好きになれそうだ。  うっは。わたしと彼の話ってほとんど短いですよねー。