14.かぜ  青縁眼鏡の彼は病弱だ。体が本当に弱い。聞いた話によると喘息持ちだと 言う。喘息が一体どういうものなのか、わたしはよくしらないが大変だなと は思う。本当に彼は気分が悪い時は悪そうな顔をする。わたしは苦しむ彼の 顔を見るのは好きじゃない。だって、苦しい彼の姿を見たってちっとも嬉し くないから。彼の笑顔が好き。わたしが好きなのは彼の苦しい顔じゃなくて 彼の幸せそうな笑顔なの。  彼が風邪をひいた。まあ、いつものことなんだけど。だるそうな顔をして いる。わたしは大丈夫? と声をかける。それ以外、何を言えばいいか思い つかない。彼は低い声でいいや、めっちゃだるいと答える。きつそうだ。わ たしはどうしたらいいんだろう。彼の姿を見て思った。  彼が風邪をひいたときは一体、何をすればいいんだろう。わたしは一刻も 早く彼に元気になってもらってあの大好きな笑顔を見せて欲しいと思う。だ けど、わたしは何ができるだろうか。  手料理作ってあげたらよけいに悪化しそうだし。家に上がり込んでも気を 使わせるだけだし。元気が出るように話しかけても、ねえ。  どうしたらいいものか。 「ねえ」  声をかける。彼はわたしを怠そうに見る。わたしはニッコリと笑む。彼は それを見て、苦しそうにゆっくり笑う。 「おだいじに」  そう言って彼からはなれる。そうね。風邪の時はゆっくり一人にさせてあ げましょうか。  さて……わたしも風邪をひきに、風にでも当たりにいきましょうか。わた しが風ひいたら彼は心配してくれるかしら。きっとしないだろうな。自分の きつさで精一杯だろうし。そんなよゆう、ないだろうなあ。なんて。勝手に 思いこむ。  なんだかなあ。母親の言葉を思い出す。健康的な人と結婚しなさい。はる か昔、本当に小さい頃聞かされた言葉。彼と結婚する気はハッキリ言ってな い。けど、普通に付き合う程度なら不健康でもいいんじゃない? と思う。 好きだから付き合っているわけだし。よくわからないわ。  振り返り、彼をもう一度見る。げほげほと苦しそうに咳き込む。長生きし てね。心の中で思った。  めちゃくちゃだ……ありえない。だめ、なにこれ。