16.まち 「ジングルベール、ジングルベール、すずが、なる」  楽しくクリスマスソングを歌う。もうすぐクリスマスだわ。にっこりと微 笑みながら彼を見ると彼は唖然とした顔をしていた。ぽかんとくちを開けて 何か言いたげな目。わたしは小首をかしげどうしたのと聞く。彼ははあ、と 溜息をつき、笑顔をつくる。 「おかしいやろー、この時期にクリスマスソングは」  わたしにとってはもうクリスマス間近なの。そう答えると彼はどうにか笑 ってくれた。メリークリスマスと言ってわたしの頭を撫でてくれる。サンタ さんからもうプレゼントもらっちゃったと言って喜ぶ。今度の彼の笑みは本 当の笑顔になった。  住んでいる町から少し離れ、都会の方へやってきた。わたしたちの住んで いる県の中心街かしら。たくさんの人が薄着で歩いている。ありがたいこと 今日は曇り空なのでカッと皮膚を焦がすような暑さを放つ太陽は拝まなくて すんだ。  季節は夏の真ん中。わたしの頭の中ではもうすでにクリスマスツリーが部 屋に飾られ、窓の外をのぞくと雪が降っていて雪が積もっている。サンタの おじさんとの再会ももう少しと言ったところ。わたしは普通の人と比べて先 のことを身近に感じるのだ。なのでお正月が終わった後にもうすぐお正月だ ねと言ったりしてしまうこともある。 「本当に君はおめでたいやつやね」 「ありがとう」  ニッコリと笑う。コーヒーを飲む。ここはこの街でも有名なカフェ。人気 かどうかまではしらないけれど、テレビでよく紹介されている。ここのコー ヒーは美味しいわ。彼がオススメと言ってくれるだけはあるわ。夏だけどわ たしはホットコーヒー派。もちろんブラック。 「水着とか、買うん?」  水着姿見たいの? と返す。彼は見たくないと言ってコーヒーをごくごく と飲む。かわいいと感想を伝える。うるせえと怒られる。わたしは笑う。ほ んとう、おもしろい人ね、彼って。  わたしは注文したサンドイッチに噛みつく。この焼き加減、たまらない。 このカリっとするぐらいによおく焼いたパンが美味しいの。そしてとろけた チーズにきちんとゆであがった卵。半熟卵なんて言語道断。だめだめ、あん な生は。やっぱりきちんと火を通さないとね。食べている間にたらーり垂れ たらもったいないし。  わたしはもう一度サンドイッチにかぶりつく。くちをもぐもぐさせ、飲み 込む。おいしいと顔をくしゃくしゃにして足をばたつかせながら言う。これ、 すっごく美味しいよ! と目を見開きながら彼に感想を報告する。彼は目を 細める。 「サンドイッチが好きやね、君は」 「うん、大好きよ。おいしいもの。ふふ、あなたといると更に美味しく感じ ちゃうのよね」  またまたそんなこと言って。彼は嬉しそうに笑う。こんなサンドイッチが 大好きなの。連れてってくれてありがとう。そうお礼を言うと彼はとびきり の笑顔を見せてくれた。 「やっぱり。君はきっとこんなサンドイッチが好きやろうなーって思ったも ん。そんなに喜んでくれて。連れてきたかいがあったよ」  彼がコーヒーを飲む。あまって机の上においてるだけの手にわたしの手を 重ねる。彼がわたしを見る。わたしはニッコリ微笑み、彼の手を握る。彼も ニッコリ微笑む。 「ありがとう。すっごく嬉しいわ。わたしのこと、よく分かっているのね。 ふふ、観察力が鋭いのねえ」  そう言ってわたしは彼の手を握り直し、親指だけをあげる。そして彼の親 指の上に親指を重ね、チカラのかぎり押す。数を数える。あっと彼は声をも らし、慌ててわたしの親指から逃げる。そしてすかさずわたしの親指の上に 親指を重ね、すごい速さで数字を数える。 「よっしゃ勝ったー!」  拳をギュッと握ってガシッと腕を上から胸の所へおろす。おもしろい。わ たしは肘をつき、手をさしだす。次は腕相撲よ。彼と手を握り、よーいどん というかけ声で試合開始。チカラいっぱい体重をかける。うおおおと彼は言 ってチカラを入れる。これじゃ負けちまうだなんて嘘言っている。  どうにか机スレスレまで倒した所を一瞬にして返される。またよっしゃー とガッツポーズする。本当、負けず嫌い。そして勝った時のこのはしゃぎよ う。ステキね。 「ふふん、さんざん負かしてくれたわね」 「だって俺強いもーん」  ふざけた調子で彼は言う。そんな顔がおかしくてわたしは笑ってしまう。 負けた。ここは真面目な顔で何か言ってやろうと思ったのに。かなわないな あ。 「さあ、次は負けないわよ? 勝てるかな。お洋服選びに時間がすっごくか かるわたしに」  彼は苦く笑った。  いいですねー指相撲に腕相撲。あっは。好きですわー。 ……全然まち関係ないじゃん! 夏もクリスマスも全然関係してないよ!