17.じかん  ああ。どうしよう。わたしの悪い癖だわ。あら、これは癖っていうのかし ら。性格の問題かしらね。いいえいいえ、そんな場合じゃないわ。ああ、今 日も遅刻だわ。わたしってどうしてこう、待ち合わせに早めにいけないのか しら。早く来たら早く来すぎたでそこらへんをブラブラして時間をつぶした せいで遅刻はするし。遅くきたら遅刻だったりするし。はあ。どうしてこん なに遅刻魔なのかしら。  ああ、いけない。またわたしの悪い癖。あら、これは癖っていうのかしら。 あら、また同じこと考えてる。まったく。雑念だらけのわたしの脳みそ。一 つのことに集中することができないの。だから、一つのことに一生懸命にな れる男性がうらやましいわ。どうして男の方は女の人と違って一つのことに 集中できるのかしらね。女の人はいっぺんに二つのことをしちゃうのに。う らやましいわ。  あら、いやだ。またわたしの悪い癖。あら、これは癖っていうのかしら。 あら、また同じことを考えているわ。まったく、雑念だらけね。ほらほら、 こんなくだらないことを考えている間も時間は刻々と進んでいるわ。急がな いと遅刻しちゃうわ。まあ、わたしが遅れてくるのは彼も百も承知でしょう けど。急ごうっていう気持ちが大切よね。焦らずに冷静に急ぎましょうか。  結局わたしは待ち合わせに遅刻した。いつものことなので彼も「また?」 と笑顔で許してくれた。彼の心の広さに感謝。  彼は待っている時間におきたことを話してくれた。それは鳥の話だ。捨て てあるのか、置いてあるのかよくわからないパンがあった。そのまま腐らせ るのも捨てるのももったいないのでパンをちぎってそこら辺に放ったそうだ。 するとちゅんちゅんと鳴きながら鳥たちがたくさん集まってきた。  わたしはその話をへえ、とかおお、とか感嘆しながら聞く。  で、どんどん増えてくるそうだ、鳥の数が。最後の一つを放り、しばらく 鳥を眺めていた。えさがなくなり、鳥たちがチラチラとこちらに視線をおく るのを感じたらしい。でも、もうパンがないから彼はどん、と地面を強く踏 んだ。すると、音に驚いた鳥たちはいっせいにバタバタと羽をはばたかせ、 羽毛をまきちらしながら飛んでいったらしい。ふーんという感じの話だ。  で、この話はここで終わりではない。まだ、続きがあるのだ。一人のご老 人が現れて、彼にこう言ったそうだ。 「鳥にな、パンをやると体の中にカビが生えるんよ。だから、これからは気 ぃつけて。カステラだったらええよ。化学なんたらの含まれた物はダメや」  詳しく話を聞こうとしたが、散歩の途中だとか言われて聞けなかったそう だ。彼はそのご老人の話にひどく一驚したそうだ。 「いやあ、もう、びっくりしたぜ。パン食べたら胃にカビが生えるんだぜ? すごいよなあ。鳥はうまく消化できないんやね」  一つ賢くなったぜ、と彼は嬉しそうに話す。嬉しそうな顔をしている彼を 見て嬉しくなったのでわたしも嬉しい顔をして「また物知りになったねー」 と言って彼の腕に腕をからませる。 「カステラだといいらしいけん、今度買って一緒にやろうぜ。あ……化学調 味料とかそういうんの使っているやつはダメなんだよなあ? んー作ってよ」 「え? か、カステラ? うーん。カステラ、ねえ……」 「なんでカステラはいいんやろうな?」  彼は小首をかしげる。かわいいなと思った。 「卵をたくさん使うからタンパク質豊富でいいんじゃないの? パンとか炭 水化物の固まりだし」 「あー! そうやね! そういえばそうやねえ!」  彼は目を見開き、声を高まらせながらうなづく。いやあ、さすがだなあと 言いながらわたしの頭を撫でてくれる。やったーなんて言って腕をぎゅっと 抱きしめる。 「いや、でも、いいおじいさんやったよ。よぼよぼじゃなくて、きちんとな んていうんかな、普通の体つきやった。それで、ああいう知識あるなんてい いよなあ。俺もあんなおじいさんになりたいなー」 「なれるよ、あなたなら絶対。だって、足腰は引き締まっているし、肩幅広 いし、胸板厚くて広いし、筋肉あるし、背中広いし、力持ちで力強いし…… 体のラインだってすっごくキレイだよ。とくに脚のライン! もう、あなた の体って完璧すぎ。男前だよねえ」  彼の体の大好きな所を並べてみたらベタ褒め状態になっていた。彼は嬉し そうに照れながら「そう?」と答える。まったく。その態度はたまらなくか わいいんだから。 「でも俺、頭悪いしなー」 「えー? そんなことないよ。だって、普通の人が考えつかないこと考えち ゃうし、わからないことがあっても自分でしっかり考えて答えを出そうとす るし。話だってすっごくおもしろいよ」 「まあね」  得意げに彼は答える。 「年をとるならやっぱり教養みたいなのつけてとりたいよなあ」  わたしはうなづく。  時間、絡んでるよね……?