12:「ううん、車」  あーあ。お小遣いピンチ。今日は炎山と遊ぶ日なのに。いや、お金を使わずに遊ぶ方 法なんて山のようにあるだろうけど。今日は炎山に何かプレゼントするって約束したん だよな。だから、な。悩むんだよ。財布の薄い小学生は。  ……さて、今日はどうするか。パフェは……炎山だけ食べるならいいけど、それじゃ 雰囲気悪くなるしな。炎山がおいしそうに食べているのを見ているだけでお腹一杯なん て言っても気をよくするようなやつじゃないし。うーん。まずどっか店に入って……そ うだなあ。キーホルダーでいいかな。いいのか? うーん。御令息だからな、そんな安 っぽい物で喜ぶかなあ。って言ったら何も買えないしな。ああ悩む。  あ。炎山来た。道路の向こう側。俺の顔を見てニッコリ微笑み、小さく手を振る。は は。こっちこっちと俺も手を振る。炎山が走って道路をわたる。俺の前に着き、膝に手 をのせ、はあはあと呼吸。深呼吸をし、俺の顔を見て笑う。 「さて……約束は覚えているか」 「はいはい、覚えてますよ、炎山クン」  フンと笑い、じゃあ、何故そうなったか説明しろと命令する。 「はい、僕が炎山がどう? って聞いたのを適当に答えたからです」 「ほほう。それについて光はどのように思っているんだ」 「はい、大変反省しています。もうそんなことが起きぬよう、きちんと話を聞きます」  うれしそうに炎山は笑い、そんなことはどうでもいいから早く早くと腕を引っ張る。 無邪気でいいね、炎山。俺に似てきちゃったよ。俺色に染まっちゃって。  連れてこられた先は。デパート。おいおい。ムリムリ。買えないって。俺が崩れた笑 顔をしていると炎山が耳元で「見るだけ。お願い」とささやいてきた。ゾクゾクした。 炎山の声が、吐息が直に耳にあたる。こそこそ話すなんて、悪いことしているみたい。 こんな大勢の前で。いいね、気持ちいいよ。はは。  洋服見たり雑貨を見たり。料理道具に家具。なんだかよくわからない物も売っていた。 デパートの中を散々歩き回った。次で最後という約束のもと、最上階へ行く。飲食店ば かり。ああ、お金ないから食べられないよ。しかもデパートだから高いんじゃない? それに俺ら小学生だし。小学生二人でこんな所でご飯を食べていいのだろうか。なんだ か怖い。  そんな俺の気持ちを無視して炎山はどこのお店で食べようかなと選んでいる。その楽 しそうな笑顔が小悪魔ならぬ、悪魔に見えた。キラキラ目を輝かせて。そんなに俺の魂 が欲しいですか。なんて思ったりする。 「ここで食べる」  スパゲッティ。高そう。だけどすっごく美味しそう。炎山の選ぶ物はほとんどおいし い。だから、食べたい。一緒に。炎山と。だけど。財布がなあ。俺が苦笑すると炎山は 腕を引っ張り、気にするなと言って店に連れ込んだ。  高そうじゃない。高い。店の雰囲気が凄い。おしゃれ。高級感溢れる。そして場違い な小学生二人。レジ係りも困った顔をしている。坊や、ここは子供が来る所じゃ……な んて言いたげな顔。炎山は会社の名前を告げ、オフィシャルネットバトラーエースの伊 集院炎山だと名乗る。慌てて席まで案内する。一番いいんじゃないかなと思えるほど、 眺めのいい席。特別席かもしれない。すごいなあ、炎山。と思った。けど、すごくない やと思い直した。だって、これはただの権力を使っただけだから。大人って権力に弱い なと思った。 「さて、何を食べるか」  メニューを広げる。どれも美味しそう。そしてどれも値段が。や、安いのでも頼もう かな。安いのでも高い。あー。どうしよう。炎山の様子をチラリとうかがう。目が輝い ている。メニューに釘付け。俺は深く息を吐く。そんな風に俺を見てくれればな。 「決まったか? 光」 「え? あ、ああ……これ」  この中でも一番安いやつを選ぶ。安くないけど。安くないけど! 「……ムリしてる?」  うん。 「今日は俺のおごりだって」  素直に喜ぶ。ごめんなと思いながらありがとうと言う。まあ、炎山お金持ちだし。こ のぐらい、どうってことないんだろうなあ……。それなのに俺が何かプレゼントか……。 変な感じ。  スパゲッティはすごく美味しかった。今までに食べたことのない味だった。もう、こ んなスパゲッティは食べないかも……なんて思った。  炎山と肩を並べて歩く。炎山はさっきのスパゲッティの感想をうれしそうに話す。俺 は無言できいた。いや、聞き流した。そんな気分だったから。炎山が悲しげな顔をして どうしたんだ? と腕のすそを引っ張る。 「……いや、ごめん。プレゼント、どうしようか」 「ううん、車」 「は? 車?」  車なんてムリだよ! そんな、0がいくらつくと思っているんだ! 俺はムリムリと 答える。炎山は笑う。冗談にも程があるって。 「将来、買ってくれよ。一生かけて」  一生、ねえ。はは。面白いこというな。 「んじゃね、約束してやるよ。その約束、忘れないように車のキーホルダーでも買うか」  炎山がうれしそうに笑った。炎山と俺。おそろいのキーホルダー。さて、これで一生 の約束をしてしまったわけだ。安いお値段でな。  キーホルダー買うまでを書こうかなっと思ったけどダラダラしそうだからここで。 いや、はじめでダラダラしすぎだけどねん。