13:「耳はいいよ」  そう。耳はいいのだ。炎山は。地獄耳なんだ、本当に。誰かに炎山の話をするとすぐ オート電話がかかる。いや、冗談抜きで本当に。悪いことっていうか、ドジったことな んか話すと必ず。だから、炎山の悪い話はほとんどしない。そのせいだろうか。炎山の 良いところしか見てない。悪いところを見たとしても可愛いところあるな、で終わって しまう。なぜだか炎山の全てを認めることができる。  こういう関係っていいことなんだろうな。珍しいことなんだろうな。俺と炎山はきっ とどんなにしても互いに引き合う関係なんだろうななんて思う。ちょっと哲学的に考え たりもする。 「たまごのから」  ボソリと言ってみる。炎山とは別の部屋で。炎山は今、リビングにいる。俺は俺の部 屋。さて、こんなに小さな声なのに。あら不思議。炎山君には聞こえてます。 「光、俺の悪口言わなかったか」  ほらね。ガチャリとドアを開けてわざわざ確認しにきました。ね。地獄耳。ドア閉め て、隣りの部屋でささやいたのに聞こえる。これは地獄耳しか呼びようがないだろう。 俺はニヤリと笑う。 「耳はいいよ」  そう言って炎山は俺に近づき、ポカリと腕を拳で弱く叩く。ブスッと怒った顔。俺は ごめんごめんと謝り、炎山の髪の毛を撫でる。からじゃないからななんて言いながら俺 の手をどける炎山。俺が悪かったってと謝ってもすねたまま。子供っぽい。かわいい。 「俺、鼻いいんだぜ」  俺はそう言って炎山の胸に顔を埋める。炎山のにおい。 「卵のにおいがする」 「ばか」  コツンと頭をこつかれる。俺は舌を出して笑い、こつかれた所を撫でる。卵のにおい なんてするわけないじゃん。いいにおいだよ、炎山。食べ物なんかで表せない、炎山の におい。俺、好き。炎山のにおい。落ち着く。胸一杯に炎山の胸で息を吸ったときは胸 の鼓動が速くなっていくような感じがした。実際そうだったのかも。 「耳はいいよ」  そう言って炎山は自分の胸に手を当てる。ああ。聞こえたんだな。耳がいいから。俺 のドクドクいう心臓の音がさ。耳、いいね。俺は炎山の耳元でささやく。炎山の耳が少 し赤くなる。たまごのからと言って炎山の髪の毛をぐしゃぐしゃにする。炎山が怒って ポカポカ俺をたたく。  まったく。  こんなどうでもいい時間が俺にとったら最高の幸せだよ。幸せのたまごさんよ。  たまごのからー。まあ、ほのぼのとね。友情を(しつこいなー)