16:「ついてる」 「ついてる」  熱斗は自分の右頬を指で押さえる。炎山の動きが止まる。俺の目を見つめる。炎山は 自分の左頬を一生懸命手で拭う。だが、何もとれない。熱斗は笑い、逆だよと教える。 炎山は顔を赤くし、急いで自分の右頬を拭う。熱斗その様子を微笑みながら眺める。本 当、ドジな所があるよなあ。はにかみながら笑う炎山。またパフェを食べ始める。一生 懸命目をキラキラさせながらパフェを食べる炎山の姿は本当に無邪気でかわいらしい。 クリームを頬につけたり、果物を落としたり。意外と不器用。こんなことを知っている のは俺だけだろうな。熱斗は得意になる。 「光はもう食べたのか?」  手を止め、炎山は熱斗の器を見る。キレイに食べている。熱斗はスプーンを器に入れ、 空をかきまぜる。スプーンと器があたり、カランカコンと音が鳴る。美味しかったよと 熱斗は感想を告げる。炎山は嬉しそうにニコリと笑む。  ゆっくりと時間が過ぎる。もぐもぐ味わいながら食べる炎山。ゆっくり。花瓶に生け られた赤と白の花が華やかに咲いている。ああ。幸せだな。熱斗はうっとりと炎山を見 つめる。 「なあ」熱斗は炎山に話しかける。 「俺らってさあ、ついてるよな」  ニコリと笑って言う。くちを開けてあーんと言う。炎山はクリームとイチゴの所をス プーンですくい熱斗のくちへ運ぶ。熱斗のくちにクリームがつく。 「ついてる」  炎山に言われ、へへと笑って熱斗はくちをペロリと舐める。甘い。 「こうやって会えてさ。こうやって話してさ。こうやって遊んでさ。そういう風になる のってやっぱりついてるからじゃない?」  ニコリと笑う熱斗。炎山もニコリと笑う。  甘いパフェとゆっくり過ごす。こんな時間があるなんて、ついてる。 おかしいな。気分的には長くかいてるつもりだったのに。短い。 みんな、ついているんだよ。だけど、それに気づいていない。残念だね。 全ての人が、自分がついていることに気づければ、すっごく幸せだろうね。 なんてね。自分も気づいてないんだけどね。