19:「え、そっち!?」  今日は家に炎山が来る。よし。今日は奮発してケーキでも買ってきてやるか。熱斗は そう思い、財布を手に家を飛び出す。太陽の光が眩しい。お昼の時間。炎山が来るのは 昼過ぎの夕方前。おやつの時間どき。熱斗は走る。メイルに会った。 「あ、熱斗。そんなに急いでどこいくの?」  ケーキを買いに行くと答える。メイルは胸の前で手をあわせ「あ、じゃああたしショー トケーキ食べたいなあ」と言う。はあ? と熱斗はメイルを呆れた顔で見、あほかと言 って走りすぎる。  街へ行き、ケーキ屋を探す。先ほどインターネットで調べたケーキ屋は確かこの角を 曲がった所を……。熱斗はキョロキョロしながら歩く。あった。熱斗はケーキ屋にかけ こむ。 「いらっしゃいませ」  自動ドアが開き、店員の声で出迎えられる。街の様子とは違い、落ち着いた雰囲気。 別世界にいるようだ。クリーム色の店内。甘い香り。ショーケースに飾られた色とりど りの美味しそうなケーキ。店の3分の2にテーブルと椅子がおかれている。ここで食べ ることも可能なようだ。  熱斗は緊張しながらショーケース前へ行く。身をかがめ、ショーケースの中をのぞく。 やっぱりケーキは高い。こんな小さな一切れでこんなに。熱斗はケーキを見つめる。炎 山はなんのケーキが好きだったかな。チョコレートケーキ? いやいや。炎山はチョコ レートにうるさいんだよな。普通に売っているやつは甘過ぎだって言っていた。じゃあ、 ショートケーキ? ううん、それもなあ。タルト? いや、タルトが好きなのは俺だ。 じゃあ、何にするか? 熱斗は悩む。パフェ好きな炎山がいつも注文するパフェを思い 出してみる。生クリームにホイップクリーム。コーンフレークにクッキー。フルーツに ……。色々なパフェを食べてたからどれがとくに好きなのかよくわからない。  とりあえず熱斗の分はフルーツタルトに決まった。さてさて、肝心な炎山はどうする か。ショーケースのケーキとにらめっこ。フルーツいっぱいのロールケーキ? クリー ム好きな炎山にいいかもしれないティラミス? ここは普通にショートケーキ? それ ともプティング? ってプティングってなんだ? プリン? 熱斗は目をつむる。指を 動かし、ぴたりとショーケースに指の腹をあてる。目を開く。ショートケーキ。 「フルーツタルトとショートケーキください」  これでよかったのかな。熱斗は少し不安に思った。だが、心配しなくてもいいかと安 心することにした。  家に帰り、ケーキを冷蔵庫にいれる。 「熱斗クン、本当によかったの、ショートケーキで?」  PETの中のロックマンが熱斗に聞く。いいんだよ、炎山甘い物全部好きだからと答 える。ロックマンははあ、と溜息をつく。僕に一言相談してくれればいいのに。熱斗は それを聞いてPETを片づけようとする。 「な、何? ね、熱斗クン、急に何?」  PETの中のロックマンが慌てて熱斗にたずねる。熱斗は無言でいようと思ったが、 すぐにやめてくちを開いた。 「炎山のこと、全然知りもしないのにそんなこと言わないでくれ」  そう言って片づける。  家の中を片づけ、掃除する。まあ、いつもママが丹念に掃除してくれるのでこれとい った掃除はしなかった。とにかく熱斗は止まっていられてなかった。動いていないとい けないような気がし、ただひたすら動き回った。  チャイムが鳴る。熱斗は慌てて玄関へ行き、ドアを開ける。炎山が居た。熱斗は笑顔 で出迎え、家へ招く。炎山はおじゃましますと挨拶をし、家へあがる。熱斗はリビング まで案内し、炎山を椅子に座らせる。 「どうしたんだ、今日はそんな改まって」  炎山が怪訝な顔できく。熱斗はニッコリと笑み、ちょっと待っててと行ってキチンへ 行く。冷蔵庫からケーキの入った白い箱を取り出す。ひんやりして冷たい。白い箱を机 の上におき、開く。皿とフォークとコップを食器棚から取りだし、机に並べる。お茶で いい? と炎山にきく。炎山が頷いたので熱斗はコップにお茶をそそいだ。  ケーキを皿の上へうつす。 「どっちにする? フルーツタルトとショートケーキ」  炎山はうーんと悩む。フルーツタルトとショートケーキを交互に見る。迷っている。 無理もない。どちらも美味しそうなのだから。しばらく悩み、炎山は指さす。 「え、そっち!?」  熱斗は思わず声をあげる。目を見開いて熱斗を見つめる炎山。熱斗は炎山の顔を見、 驚いた顔をしている炎山に驚く。そして慌てて自分のくちを両手でおおう。炎山はショー トケーキの隣りにおいてあるフルーツタルトを指さしていた。 「あの……いや、俺、ショートケーキが食べたい」 「いや、いいんだ、炎山。無理しないで。俺、ショートケーキ食べたかったから……」  沈黙。なんだか気まずい。熱斗は自分の行動を反省する。しばらくすると炎山がフルー ツタルトの皿を取った。あ、と思って熱斗は炎山の動きを見つめる。フォークで丁寧に フルーツタルトを半分に割る。ショートケーキも自分のもとへ寄せ、半分に切る。片方 にフルーツタルトをうつし、ショートケーキをうつす。熱斗は炎山の顔を見つめる。炎 山はニコリと笑む。 「一緒に食べよう。一個まるまる食べるより、二つを半分ずつ食べる方が楽しめる」  熱斗はありがとうと言う。うれしかった。甘いケーキがいつもより甘く感じられた。 おいしかった。すごくおいしいケーキだった。炎山と笑いながらケーキを食べる。たま にはいいかも。あ……そうだ。後で炎山の好きなケーキきいておかないと。  ケーキ。ティラミスにしようと思ったけど別の話とかぶるので……。 ティラミスがよかったんですけどね。他にもケーキあるのでしょうが名前思い浮かばず。 何かあるかな。パウンドケーキとか。パイとか……。ううん、ちょっとずれますね。