24:「すごいはねてるよ」 「ところでさあ、店に食べに行くのはこの際100歩譲って認めるけどさあ」 「なんだ、その100歩は」  熱斗は炎山の髪を触る。一部を掴み、先端に向かって撫でる。炎山は熱斗 を見あげる。ニコリと熱斗は笑み、髪の毛をぐしゃぐしゃにする。 「すごいはねてるよ」  えっと炎山が自分の髪に触れる。ええと何度もえを発音する。髪の毛を触 り、撫で、掴み、引っ張る。顔が赤くなっている。ああ、どうしようなんて 言いながら髪をいじる姿が面白い。ニコニコその様子を見ていたら炎山が頬 を膨らまして熱斗を睨んできた。 「なんだよー、俺のせいじゃないじゃん」 「光がさっさと宿題終わらせないから寝たんじゃないか!」  クスクス笑う熱斗。かわいいなあと言って炎山の頭を撫で、洗面所に連れ て行く。シャワーと蛇口、どっちにしますか。丁寧に熱斗が聞く。 「俺に洗面台に頭を突っ込んで蛇口の水を頭いっぱいに浴びろというのか」  また熱斗は笑う。御令息様、ごめんなさいませ、なんて言ってみる。炎山 がばか、と言ってポカリと熱斗の胸を叩く。はははと熱斗は笑い、風呂場の ドアを開ける。 「はい、じゃあ、しゃがんで。頭、出して」  風呂場に入る、炎山はしゃがむ。そして俯く。熱斗はシャワーヘッドを掴 む。蛇口を回すと噴出口から水が出てきた。手で触ってみると冷たかった。 炎山の頭にこの冷たい水をかけたら怒るだろうなあ。そう思い、熱斗は温か くなるのを待つ。 「まだか」 「うん。冷たいよ」  しばらく黙り、また炎山が言ってくる。 「いや、冷たくていい。修行の一つだと思って。それに、目も覚めるだろう」  熱斗は遠慮なしに冷たいシャワーを炎山の頭に浴びせる。ひゃあとか奇声 をあげるかなあと楽しみにしていたが、炎山は耐えた。つまらなかった。  一通り、水を浴び、寝癖もわからなくなってきたので水を止める。炎山の 髪からしずくがポタポタ落ちる。熱斗はタオルを炎山に渡す。返される。熱 斗は返されたタオルで炎山の髪を拭く。白い髪に黒い髪。どんな風に遺伝し たんだろ。タオルでごしごしと拭く。痛いと言われたので優しく拭く。  後頭部側がだいぶ拭けたので顔をあげてもらう。前髪が顔にくっついてい る。なんだかなあ。水も滴るいい男ってやつ? 色っぽいんだから。熱斗は ドキドキしながらタオルを炎山の頭にかける。目に水が入らないように目を つむっている。へへ、ぼっちゃんだなあ。熱斗は思った。  ごしごし前髪を拭く。なんか、なんかなあ。心臓の音がはやい。もっと、 もっと近くで。そう思っているうちにだんだんと炎山の顔との距離が縮まる。 まつげにしずくがついてキレイ。顔が白くて、ほっぺは赤くて。唇もなんだ か潤っていて。  パチリと炎山が目を開ける。そのひょうしでぶつかる。炎山が目を見開く。 「あ……いや。キレイだよな、炎山」  炎山が顔は顔を紅潮させる。ばか、と言い放ち、風呂場からズカズカとで ていく。  事故だよ、炎山。本当に。許して。  がーん。ショック。04の続きみたいな。えらいさかのぼりますな。