27:「あーそれね、見た見た」  学校の休み時間。熱斗の席にデカオとメイルとやいとが集まる。みんなニ コニコと笑っている。「アレ、見たかしら、みんな?」とやいとが言う。デ カオとメイルは声をあわせて「見た見た!」と人差し指をたて、振りながら 言う。アレとはアレのことだろうか。熱斗はぽけーっとしながら聞くことに した。 「もう、びっくりしちゃた。まぐさんがあんな告白するなんて」 「まあね、わたしもびっくりしたわ。今以上の幸せを手にいれましょうって 上手な演技だったわね」  デカオがいやあ、感動ものだったねえと深く頷きながら言う。おかしい。 熱斗は口元を隠し、ククと笑う。 「熱斗は見た?」  メイルが聞く。 「あーそれね、見た見た」  全部? とやいとが聞いてきたので一部だけと答える。 「どこらへん見たんだ?」デカオが聞いてくる。 「んーなんか、あなたが好き、こうこうこうで、こうこうだから。とか言っ ている所。んで抱き合ってキスしたとこだけ」  うわあーっ! 三人はくちを押さえ、同時に奇声をあげる。なんだ、何が そんなにうわあーっなんだ。熱斗はデカオの顔を見る。 「クライマックスぴったし見てるよ、こいつ」  顔が赤い。メイルの顔を見る。メイルも赤い。やいともやっぱり赤い。や っぱりあのドラマはあの時間帯にやるには刺激的だったな。そう思い、どん な場面だったかを思い出す。   好きだ好きだと女が一方的に口説く。男が女を抱き寄せ、見つめ合う。そ して深いキスを交わす。そう、こんな場面。そんな場面をあの日、俺は炎山 と見ていた。ぽかんとくちを開けてそのドラマを見入っていた炎山。顔は紅 潮してて目はうるうるしてた。  そんな顔を見てドキリとした。多分誰が見てもドキリとすると思う。あの 顔は殺人だ。本当に、本当に胸がドクンと鳴った。そしてドキリとした炎山 のあの顔。たまらない。  あんなドラマの映像よりも炎山のあの真っ赤な顔にうるうるした眼の方が 眼に焼き付いている。ドラマの深いキスなんかよりもあの真っ赤な顔の炎山、 潤んだ目、脈、呼吸の方がずっとずっと。 「ちょっと熱斗、聞いてる?」  目の前にメイルの手が現れる。ビックリして体を引く。やいととデカオが 笑う。何そのシーン思い出しているのよとやいとが突っ込む。熱斗はドキリ とし、顔が少し熱くなる。そのシーン。きっと深いキスのシーンだろう。だ けど熱斗は炎山を抱き寄せた時のシーンを思い浮かべた。はは、俺ってばか だなあ。 「あらやだ、赤くなっているわよ」  ハハハと三人が笑う。熱斗もそれにあわせて笑う。まったく。炎山におぼ れてませんか、俺。  08の続き。あの回の炎山を想像するとすっごくかわいく感じる。 我ながらあっぱれ。