29:「はいはいはいはい」  俺は見てしまったんだ。俺は後悔した。あの時、あの場所に居なければ。 あの時、あそこへ行こうと思わなければ。ああ、やだやだ。過ぎたことを悔 やんでも仕方がない。もういやだ。もう、遊んでやらない。ふんだ。  今日、エンドシティに行った。シャチホコを見に。炎山が好きだと思われ る団子を帰りに買って帰ろうと思って立ち並ぶ屋台を見ていた。そしたら居 たのだ。炎山が。そしてジャスミンが。楽しそうに笑いながら肩を並べて歩 いていたんだ。  これはどういうことだ。なんて思ってしまった。なぜなら今日は炎山とは 仕事で会えない日だからだ。それなのに、何故ジャスミンと楽しそうにエン ドシティをうろついているのだろうか。これは、まさか、あの噂の、あれ、 だろうか。  そう考える自分がおかしい。という気持ちは確かに頭の片隅にあった。だ が、片隅にありすぎてあまりそう思わなかった。ムズムズする。なんだ、こ の気持ち。これが噂の激しい嫉妬心というものなのだろうか。  炎山と遊んできたことが思い出される。そう、あそこへ行ってあんなこと して。パフェを食べて遊びに行って遊びにこられて。そして、ああ、色々し た。たくさん炎山を傷つけてきた。俺だって少しは……傷つくときだってあ った。  これは仕返しなのだろうか。俺が炎山の嫉妬心をあおるようなことを今ま で何度もしてきたから俺はそういう目にあっているのだろうか。シャチホコ なんて見る気にならない。もう帰る。  家に帰り、ベッドにダイビング。ぼふ、とベッドは俺をはねかえそうと弾 む。炎山のばかあ。もう遊んでやらない。  気づいたら寝てた。起きる。ちょっと頭が冷えた。俺がばかだったかな。 そう思った。だけど。だけど少しの間相手しないもんね。俺の意地にかけて。 俺は決意した。  数日後、炎山からオート電話がかかった。無視した。  数日後、炎山からメールが来た。見ないままにした。  数日後、またメールが来た。これも見なかった。  数日後、またオート電話がかかった。無視した。  数日後、ロックマンがブルースと会った。伝言はきかないでおいた。  数日後、炎山が家を訪ねてきた。無視した。と言いたいがママが居たため に無視できなかった。仕方なく面会。俺の部屋に炎山を招く。  炎山を部屋に入れ、ドアを閉める。座布団を渡す。お互い向かい合って座 る。無言。沈黙。静寂。俺はそっぽ向く。ちらりと炎山の様子をうかがうと 炎山は俯いていた。  さてさて。なんと言おうか。 「光」  震えた声。俺ははっとして炎山を見る。俯いているので顔がよく見えない。 「電話、無視しなくても出るぐらいいいんじゃないか。メールも見るぐらい してくれてもいいんじゃないか。返事は別に強制しない。でも、無視はひど い」  その通りだ。俺は返す言葉が思いつかない。 「俺……寂しかったんだぞ。光と会いたかったのに」  上手なこと言って。そんなこと言ったら俺、コロリと復活しちゃうじゃん か。そんなのじゃ、今までの無視が全部水の泡じゃないか。そんな震えた声 でそんなこと言わないでくれ。  炎山が顔をあげる。目に涙がいっぱいたまっている。顔が赤くて唇が震え ている。ああ、やめろ、やめてくれ。 「無視するなんて、光らしくないぞ」 「はいはいはいはい」  俺は立つ。炎山が俺を見あげる。 「たまには俺だって嫉妬するんだからな! ジャスミンと遊んでるの見たん だぞ!」  あ。言ってしまった。あーあ。恥ずかしい。俺は顎を突きだす。 「ジャスミン……?」 「あーもういい。じゃあな! 早く帰れよ!」  俺はそう言って自分の部屋を飛び出した。  俺ってばかだなあ。  ゲーム進めてて思ったけど……ジャスミンと炎山はそれなりの仲良しなんですねっ。(それなりってなんだよ)