30:「早く言ってよね!!」  炎山と喧嘩して数日が経った。喧嘩というよりも熱斗が勝手にムカムカし ているだけなのだが。学校での暇な時間や家でとくにやることのないとき。 炎山とのことを思い出す。今頃何をしているんだろう。そう思う時もあった。 だけど、そんなのどうでもいい。そう思って熱斗は行動しなかった。  ある日、ロックマンがたまには外に出たらとと提案してきた。ここ最近、 熱斗は家にこもりっぱなしだったのだ。熱斗は渋々自分の部屋を出、リビン グのソファーにどさっと腰をおろす。適当にテレビのチャンネルを変える。 おもしろそうなのは何もやっていない。 「熱斗、最近家に引きこもっているけど何かあったの?」  ママの問いになんでもないと答え、熱斗はテレビの電源を消す。はあ、と 溜息をついてソファーに体重を預ける。 「ほらほら、熱斗らしくないわよ。外に出て遊んでらっしゃい」  ママにそう言われ、熱斗は家から出された。熱斗は渋々秋原町を歩く。ヒ グレヤに行き、チップを見る。どれも欲しくないな。そう思って店を出た。  外に出てエンドシティに行きたいと思った。でも、行きたくないとも思っ た。熱斗は悩んだ。 「熱斗君? どうしたの?」  ロックマンが話しかけてくる。熱斗は悩んでいることをロックマンに話す。 ロックマンは行けばいいんじゃないと言う。熱斗はしばらく悩んだ。ロック マンの言うとおり行くことに決めた。  エンドシティに着く。立ち並ぶ屋台をぼーっと見つめる。団子やを見つけ る。あそんこの団子をお土産として買って帰ったら炎山喜ぶかなあと思って 見ていたよなとあの日のことを思い出す。そしてこの近くでジャスミンと炎 山の姿を見たのだ。  今、ジャスミンが視界に見えた。熱斗は一瞬硬直し、すぐさまジャスミン の姿を探し、追った。 「ジャスミン!」  やっと捕まえた。熱斗はジャスミンの肩に手をおき、振り返らせる。ジャ スミンは笑顔で挨拶する。 「どした? 何か用かネ?」  熱斗は場所を変えて話すことにした。近くの公園のベンチに座る。ジャス ミンは屋台で買った饅頭を頬張る。あんこの甘いにおいが隣りに座る熱斗を 誘惑する。食べたいと思った。そして炎山もきっと食べたいと思うだろうと 考えた。 「饅頭おいしいヨ。食べル?」  ジャスミンは饅頭をちぎって分けてくれた。熱斗は有り難くいただき、か ぶりつく。あつい。ふわふわの皮。甘すぎないあんこ。いい香り。おいしい。 熱斗は顔を綻ばせる。それを見たジャスミンはニッコリ笑う。 「おお、やっと笑っタ。よかった。わたし、笑顔な熱斗が好きネ」  そう言ってジャスミンはベンチから降りどこかへ行ってしまった。熱斗は 追いかけようと思ったがやめた。残った饅頭をくちに放りこみ、噛む。  しばらくベンチに座ってひなたぼっこをしているとジャスミンが戻ってき た。腕に紙袋を三つ抱えて走ってくる。熱斗の隣りに座り、一つを渡す。 「饅頭ネ。ママさんと一緒に食べてネ」  熱斗は紙袋を受け取る。温かい。袋を開ける。もわっと湯気が出る。でき たてのようだ。いいにおい。美味しそうだ。ママも喜びそう。  熱斗はジャスミンの抱える二つの紙袋を見、二袋も食べるのかたずねた。 ジャスミンは首を横に振り、炎山の分だと答える。胸がドキリとする。 「炎山とは……どういう、お関係で?」  言葉が丁寧になる。ジャスミンは小首を傾げてチームメイトとリーダーじ ゃないのと普通に答える。熱斗は少しほっとする。 「憧れでもあるネ。炎山にはよく助けられたシ、迷惑もかけタ。うん。わた し、炎山好きだヨ」  熱斗は聞くのをためらったが聞いた。 「恋愛感情とか?」  ジャスミンは笑った。 「まさか。届かないヨ、炎山には」  ほっとする。二人で笑っていると誰かが走ってくる音が聞こえた。あ、と 言ってジャスミンは大きく手を振る。白い頭。これはあいつしかいないな。 そう思って熱斗はぷいとそっぽ向く。 「ジャスミン、どうだ」 「おお、買ったゾ。これ炎山の分ネ」  そう言ってジャスミンは紙袋の片方を炎山に渡す。炎山はおお、ありがと うと笑みを浮かべ、それを受け取る。ギュッと抱きしめて温かみを確認し、 袋を開ける。湯気があがる。おおと声をあげ、中身をのぞく。 「おいしそうだ。ありがとうな、ジャスミン」 「なんのなんの。お、炎山、熱斗が話あるッテいってたヨ」  炎山が熱斗を見る。熱斗は目があってしまい、どうしようか悩んだ。炎山 がじっと見てくる。目がそらせなかった。 「なんだ?」  熱斗はくちごもる。 「わたし、どこか言った方がいいカ?」 「いや、構わない」  構えよ、熱斗は思った。チラチラとジャスミンを見る。 「え、炎山さ、こ、この前、エンドシティにジャスミンと二人で居たよな」 「ああ、そうだが」  なんだよ。ジャスミンが居る時はいつもとは違う調子じゃないか。……い や、ジャスミンがいるからいつもの調子なのか? どっちがいつもの調子な んだ。 「し、仕事、あるんじゃなかったの」 「ああ、あれな。仕事だな、ジャスミン」  え、と熱斗は目を見開き、ジャスミンを見る。 「そうネ。仕事でシャチホコの電脳の定期検査に行ったネ。そうか、熱斗も あの時いたのか。声かけテくれればヨかったのニ」  なんだ。仕事か。拍子抜け。 「早く言ってよね!!」 「早く言えも何も……そんなこと、一度も聞かなかったじゃないか」  そ、そうだけど。熱斗はぶすっと頬を膨らませて炎山を見る。炎山が笑う。 熱斗の頭をぽむぽむ叩く。 「俺を悲しめた罰だと思え。しっぺ返しがきたんだよ」  熱斗は炎山の頭をぼさぼさにする。何するんだと言って炎山は熱斗の頭を ぼさぼさにしようとする。だが、熱斗はそれをひょいと避け、逃げる。炎山 はそれ追う。 「まったく。仲良しネ」  ジャスミンは紙袋から饅頭を一つ取りだし、食べる。  ほのぼのな終わりで。ほのぼのなのか……?