07:空事  今、花の町を花に案内してもらっている。花の町はどこへ行っても花が咲 いている。キレイな花ばかりだ。建物も明るめな物ばかりで元気が出てくる ような町だ。絵本の世界にいるようだ。 「ここがオレンジの実を売っている店ね。オレンジの実、甘酸っぱくて美味 しいの。このぐらい小さいのよ」  そう言って花は親指と残りの指でまるを作る。「食べてみる?」と聞かれ たので周遊はうなづいた。花はニッコリ笑み、周遊の手首を掴んで店の中に 入っていく。  店の中はいい香りがしていた。オレンジの実の香りだろうか。店内はオレ ンジ色をしていてたくさんのオレンジの実がたくさんの木箱に入っていた。 花はその中から二つオレンジの実をとり、お金を払って買った。一つを周遊 にわたす。 「はい、これがオレンジの実。美味しそうでしょ」  周遊は受け取ったオレンジの実を観察する。オレンジ色で所々黒い小さな 斑点がある。皮はつやがあり、光沢がある。香りは店内の香りと同じ。これ がオレンジの実の香りか。おいしい香りだ。元気がでる。 「これね、このまま食べられるのよ」  そう言って花はオレンジの実をかじる。カリっ、とここちよい音が鳴る。 かりかりかりと実をかみくだく音。周遊もかじってみる。少し外側は固めだ。 「ふふ。美味しいでしょ。お風呂に入れたりジュースにしたり、お料理に使 ったりなーんにでも使えるのよ」  花はオレンジの実を食べ終えると周遊の手を引っ張って「次に行きましょ う!」と言って走り出す。慌てて周遊はオレンジの実をくちに放りこみ、花 に連れて行かれる。  公園を前を通る。キレイな公園だった。花が植えられ、噴水は高々と空へ 向かって背伸びをし、蝶が飛んでいる。赤いベンチは目立つどころか、その 公園にとてもなじんでいた。華やかな公園。公園にいる人たちの笑顔は明る く、とてもにぎやかだ。こんな公園があるなんて。周遊は知らなかった。  公園によろうよ、と周遊は花に提案してみる。花は腕にはめた時計を見つ める。 「そう……ねえ。礼拝堂行ってからね。帰りに行きましょう。ね?」  周遊は無理を言ったら悪いかな、と思ってそれ以上何も言わなかった。し ばらく引っ張られていると礼拝堂についた。白いレンガでつくられた礼拝堂。 とてもキレイである。礼拝堂の周りにはやはり花が植えられている。七色の 花が礼拝堂のてっぺんに向かって開いている。なんだか不思議な世界を見て いるような感じだ。  礼拝堂の周りにはたくさんの人が居た。幼い子から年寄りまで、幅広い年 代層の人が楽しげに談笑している。花は周遊を引っ張り、一つのグループに 顔を出す。花と同世代ぐらいの女子、5人。花の柔らかな赤い洋服よりも華 やかな服を着ている。真っ赤な服に大きく、華やかな白い花がつけられ、繊 細な柄のレースがたくさん施されている。ラメもつけられ、キラキラと光っ ている。花とは比べ物にならない。 「あらあ、花さん、今日もそのお洋服で?」 「ええ、たまたま同じお洋服になってしまいましてね、あなたと会ったときと」  にっこりと花が微笑む。あら、やだあと女5人は口元を手で隠しあははは はと笑う。周遊はあまりいい気持ちがしなかった。 「……あなたは旅のお方かしら、もしかして」  周遊はコクリとうなずき、そうですと答える。きゃああ、と5人の女が甲 高い声をあげる。耳が痛い。花は5人を睨む。 「まあ、旅のお方。はるばるわたくしたちの町へようこそ。とてもキレイな 町でございましょ?」 「泊まる場所などは見つかりになられましたか? もしまだでしたら、わた くしめの家へお上がりになりませんか?」 「あら、わたくしの家の方がよくてよ。わたくしの父、料理人でございます の。美味しいこの町のお料理をごちそういたしますわ」  女子達が次々とわたくしの家へ、いえいえわたくしの家へと周遊を誘う。 しばらくそれを繰り返し、一人の女の子が言う。 「もしかして花、あなた、このお方をあなたなんかの家に泊まらせたのかし ら」  静かに放つその言葉はなんだか重い。ここの空気だけ、いやなものを感じ る。こんなにキレイな場所で、まわりはこんなに楽しげなのに。どうしてこ こだけじめじめしているのだろうか。 「ええ、そうよ。わたしの家に周遊さんは泊まりました」 「周遊さん、この子はやめた方がよろしくてよ」  リーダーらしき女が前に出てくる。そして周遊を見つめる。なぜ? 周遊 は理由をたずねる。 「この子の家、とても貧乏ですの。町でも有名ですわ」 「それだけですか?」 「いいえ。この子、うそつきよ。今まで話してきたこと、ほとんど空事だと 言ってよろしくて」  チロリとリーダーが花を見る。花はリーダーをにらみ返す。周遊は花を見 つめる。花は周遊の視線に気づき、周遊を見る。ばつが悪そうな顔をした。 「町でも有名なほらふきですから」 「そ、そんなことないわよ! わたしの家、貧乏じゃなくって! すっごー いお金持ちなんだから。みんながうらやましいって思わないよう、貧乏なふ りしているのよ! 本当よ、本当なんだから!」  5人は声をあげて笑う。 「あらまあ、それそれは。ステキなお心遣いでございますわねえ」 「でも、お洋服がいつも同じなのはどうかと思いますわよ。貧乏人に失礼で すわ」  また女達は笑う。花は顔を真っ赤にする。 「だから、たまたま同じで……」 「嘘よ。そんなに色が落ちて、飾りも全部とれちゃって。どうして新しいの を買わないのかしら?」 「だから……そっちゅう買ったらみんなが……」 「見ていて不愉快だわ。貧乏人の人でもそんなにひどくないんじゃなくって?」  このドロドロした雰囲気。草の町にはなかった。花の町には草の町にはな い華やかさがあるが、ドロドロした人間関係もある。草の町はこんなことな く、みんな仲がよかったのに。  花の顔を見る。真っ赤になった顔。唇を強くかみしめている。目には涙が たまり、拳はぎゅっと強く握っている。周遊は胸が痛くなった。 「やめてください。わたしが選んだんです、彼女がいいと」  5人の顔が歪む。花の顔がぱっと明るくなる。  「周遊さん、知らないのですか? 旅のお方が招かれた家はたくさんの援助 がもらえるのですよ? そして、たいへん名誉なことなのですよ? その女 はあなたを利用しているんですよ?」  周遊は花を見る。花は顔をそらす。周遊はにこやかに笑う。 「あなたたちより、花さんの方がずっといいです。さようなら」  周遊はそう言うと花の腕を引っ張ってきたみちに引き返す。女は唖然と二 人を眺め、「何よ、旅人だからっていい気になって」と胸の思いを吐く。周 遊はフフンと笑った。花はうつむいたままごめんなさいと謝った。  な、なんだ、このドロドロ感は! 文もめちゃくちゃだ……。