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ブル炎ブルース×炎山

君にもたれてます


 朝です、炎山様。今朝の目覚めはその声によるものだった。ブルースの声 で起こされた炎山は、上体を起こす。目をこする。眠気は覚めない。何かを 見てみると、ぼんやりと見える。もう一度こすってみると、効果はなく、よ りいっそう視界をぼやけさせた。
 時計の数字が読めないため、ブルースに時間をきく。起きる時間がいつも よりも遅い。どうしたものかと思いながら頭をかく。髪の毛が乱れる。

「今日は……仕事、ないのか」
「はい。今日は休みです」

 そうか、と自然とくちから出る。理解したのかしていないのか。炎山にも よくわからなかった。炎山はまた布団の中にもぐる。
 ブルースは炎山のベッドに腰かける。肩に手をやり、炎山様、炎山様と呼 びかけながら揺らしてみる。起きる様子はない。ふう、と息をはき、ブルー スは炎山の寝顔を見つめる。
 いつ見ても炎山はキレイだ。細く、白い髪が色白い肌に影を落としている。 その影の繊細なこと。まつげは長く、唇はぷっくりと膨らんでいる。そっと ブルースは炎山の髪に触れてみる。
 くうくうと小さな寝息をたて、肩を小さく動かし寝ている炎山。ブルース は炎山の頬に手をやり、体温を確認する。やはり冷たい。
 どうしたらもっと温めることができるだろうか。ブルースは考えた。考え たすえ、掛け布団をもう一枚かけることにした。ブルースは毛布を取り出し、 炎山にかけた。

「ん……んん……んー……」

 炎山が唸りだした。寝返りをうち、うううと苦しそうにうめく。ばっと起 きあがる。はあはあと息は荒く、体中に汗をかいている。髪の毛までがベッ チョリと湿っている。炎山は胸元に手をのばし、パジャマのボタンを二個、 三個外す。胸元がはだける。

「炎山様、大丈夫ですか!」

 ブルースはタオルを取り出す。炎山の額の汗を拭い、様子を見つめる。

「こんなに汗を……。悪い夢でも、見られましたか?」
「ああ……。確か、沸騰した湯の上に毛布を何十枚も重ねて寝ている夢を見 た」

 それはとても大変な夢をと言いながら、ブルースは気づかれないようにそ っと炎山の毛布をとる。炎山はその毛布に気づかなかった。ブルースはふう、 と自分の冷や汗を拭う。

「汗、かいたままですと風邪をおひきになられます。拭きましょうか」

 炎山はコクリとうなずく。パジャマのボタンを全部外し、上衣を脱ぐ。あ、 という声をブルースは飲み込む。深呼吸をし、タオルでそっと炎山の体を拭 く。

「髪まで濡れてしまった」
「そのようです」
「これは拭くより風呂に入った方がいい。寝癖もひどい」

 風呂の用意をしてくれ、と言われブルースは炎山の着替えを用意する。ふ わふわの肌触りのよいバスタオルで着替えを包み、炎山に渡す。炎山は礼を 言い、部屋を出る。
 ブルースは静かに呼吸する。自分のベッドに背中からぼふ、と倒れてみる。 ベッドは仕事をしたくないのか、跳ね返してくる。しばらくそれを繰り返し、 諦めたのか、弾みがおさまる。
 ごろりと寝返りをうつ。炎山様が戻ってくるまで、一休みするか。そう思 ってまぶたを閉じた。


 さらりと音がする。耳元で。これは髪を触る音。髪が顔にかかる。くすぐ ったい。温かい指に頬を触れられる。指でなぞられ、手をあてられる。ブルー スはまぶたを開く。炎山の手。風呂上がりの炎山は体中ほてっており、朝よ りもずっと温かくなっている。

「寝ていたのか、ブルース」

 濡れた髪からしずくがぽたりと落ちる。炎山は髪を拭くのが下手だ。ブルー スはタオルを取り出し、炎山の頭にかぶせる。そして、がしがしと拭きあげ る。タオルを外す。炎山の髪はボサボサになっていた。

「いきなりやらなくても」
「いいえ、風邪をひきますから。後ろを向いてください。髪をときます」

 そう言われ、炎山はブルースに背をむけて、脚の間に座る。ブルースはく しを取り出し、炎山の髪をとく。

「昔から世話になっているな、ブルースには」
「いえ、とんでもありません」
「その……。……その。少しは、感謝、してるぞ。少しは」

 ブルースはかすかに笑みをうかべ、礼を返す。

「……すまない、嘘だ」
「炎山様?」

 炎山は後ろに倒れた。ブルースの胸に体重を預け、目をつむる。ブルース は炎山の名前を呼ぶ。

「嘘をついて悪かった」

 炎山は瞼をあげた。

「本当は、少しじゃ、ないんだ」

 そう言うと炎山はまた瞼をさげた。
 ブルースは炎山の頭を撫で、仰いだ。


UP=不明 改訂=06.04/04
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