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キャベツの香りに包まれたなら
ライカがシャーロに帰った。理由はよくわからないが、帰った。一週間シ
ャーロに滞在すると言っていた。時間には性格なやつだから必ず一週間後に
は帰ってくるだろう。 外では冷たい風が吹いている。雪は降っていない。天気はよくない。外は 暗い。シャーロはここよりも寒いのだろう。大丈夫だろうか。大丈夫だろう な。ライカのコートならシャーロでも北極でも耐えることができるだろう。 ライカが寒さに震えているのは想像がつかないしな。寒くてもいつもの顔で 寒くないと言い張るだろう。 リビングでぽけーっと窓の外を見ていると光が近づいてきた。腕に大きな サラダボウルを抱えている。そのサラダボウルに盛ってある何かをパリパリ 美味しそうな音をたてながら食べている。 「炎山も食べる? キャベツチップス」 一体どんなものか知りたかったので一ついただいた。あまり美味しくなか った。油っぽい。揚げ方があまり上手ではない。これは光の母上が作った物 ではないな。
「どう? 炎山? おいしくない?」
嬉しそうに光はにかりと笑い、よかったと答える。何がよかったのか、よ
くわからない。 「現在、シャーロではキャベツブームで、シャーロ国内ではキャベツ不足で す。そのため、他国からの輸入しているようです。ニホンのキャベツも多く 輸入しており、現在ニホンでもキャベツ不足です。キャベツの値上がりをす る店が増えており、家計に大きな打撃を与えています」
耳を疑った。シャーロでキャベツブームだと……? そんなまさか。そん
なはずが。俺が食べたいと思った瞬間キャベツブームが到来してキャベツが
なくなるなんてありえない。 ライカが帰ってきた。どっさりとキャベツの入った段ボールを二箱携えて。 さすがブーム中なことはある。俺はライカが帰ってくるや否や段ボールに抱 きついた。シャーロから来、この寒い中やってきた段ボールはひんやりして いた。においをかいでみるとキャベツの香りがした。待ちに待っていたキャ ベツだ。どれほどキャベツが食べたい欲求を我慢していたことか。 「ライカ、キャベツありがとう。おかえり」 ただいまと返しながらライカは小首をかしげた。ライカの髪がおいしそう に見えた。 「なんだ、炎山。何かついているのか?」
ライカは自分の髪をいじる。俺はなんでもないと答える。ライカは不思議
そうな顔をして他の住民にもただいまを伝えにいった。 「何か用か? 炎山」 今の現状を理解し、俺の顔は急に熱くなる。ライカの手をぺしりと叩き、 手をどかせる。 「肌がキレイだと思って。何があったんだ、ライカ」 ああ、肌。そう言ってライカは自分の頬を撫でる。
「今、シャーロでキャベツが大ブームでな。キャベツパックをしたんだ。キ
ャベツを食べていて肌が整ったが、キャベツパックをするとさらに肌がよく
なってな」
「キャベツパックの仕方、教わったから炎山にもしてやるぞ?」
にやりとライカは笑いストーブに目をやる。髪の毛も潤っている。艶があ
って健康的。一週間シャーロにいただけでこんなにキレイになるなんて。髪は
キャベツシャンプーででも洗ったのだろうか。キャベツブームにも程がある
だろう。 「な、え、炎山! な、なにをしてるんだ?」
慌ててライカの髪から離れる。くちに含んだところだけライカの髪が変に
光り、変に水っぽい。 「ご飯よ」
光の母上の声がした。ライカはにかりと笑むと俺の頬に頬をくつける。そ
して俺の頭を撫で、キャベツでも食べるかと言って立った。
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