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ライ炎ライカ×炎山

終わると思ったらはじまった。


 胸が騒いだ。
 どうしてその場に居たのだと、責めても仕方がないのに、自分を責めずに は居られなかった。
 あの瞬間が脳裏に焼きついて離れない。ダメだ、やめてくれ。離れてくれ。 これ以上俺を苦しめないでくれ。
 俺が見た物。それはジャスミンと炎山だ。ジャスミンと炎山が一緒にいる のはいつものことであって、別にたいしたことはない。だが、今回は違った。 ジャスミンが炎山の頬にキスをした。俺はその瞬間を見た。
 顔を真っ赤にさせながらキスをするジャスミン。驚いた目で固まる炎山。 顔を離した後、ジャスミンがはにかみながら笑う。炎山は相変わらずの驚い た顔。
 その光景は俺にどんな衝撃を与えただろうか。胸の底から何かが音をあげ てこみ上げるような気がした。
 ジャスミンが去ると炎山はふうとため息をついていた。壁に背中を預け、 ぼーっと床を見ている。俺は今しかないと思った。何が今しかないのか、よ くわからなかったが、今しかないと思った。
 俺は隠れていた角を出、炎山の方へズカズカと近づいていく。炎山が顔を 上げてこちらを見ている。もう逃げられない。俺は炎山の真正面に立った。

「なんだ、ライカ。用か」

 なんで平然な顔をしているんだ。なんで気まずそうな顔をしないんだ。ど うしていつもどおりの顔なんだ。どうして俺のものじゃないんだ。
 俺は炎山の肩をつかむ。炎山は何もせず、ただ俺の目を見つめていた。や めてくれ、そんな目で見ないでくれ。もう遅い。拍車をかけたのは炎山、お 前だ。お前が悪いんだ。

「……どうしたんだ?」

 唇をふさぐ。炎山は目を見開き固まった。どうしたんだなんて甘い言葉を 発するからだ。心配したような目で俺を見るからだ。炎山が俺にやるせなさ を与え続けるからだ。
 唇を合わせていると心臓が高鳴っていくのがわかった。体中が熱くなって いく。たまりにたまったやるせない思いを今日、ここではらしてやる。たと え、それが原因でやるせなさが増したとしても俺は後悔しない。
 柔らかい唇。合わせるだけでは気がすまない。唇を重ね、下唇を唇ではさ む。そして唇を舌で這う。炎山のカラダがビクリと震える。離れそうになる 唇に俺は唇を押しつける。
 上唇もなぞり、唇全体をぬらす。そっと舌を唇の間へ入れる。炎山のカラ ダがまたビクリと反応し、熱い息を吐く。炎山は目をつむり、ただ快楽に身 をあずけているようだった。その姿は層一層、俺を興奮させる。
 歯列にそって舐めくちの中を味わう。そして舌へ触れてみる。声にならな い声を漏らし、条件反射で炎山のカラダがビクリとする。柔らかな粘膜を摩 擦するように舌を滑らせ、ゆっくりとゆっくりと舌を絡める。炎山の息づか いが荒くなっていく。粘り気のある音がよりいっそう俺の行動をエスカレー トさせる。もう抑制という言葉は頭の中にはない。自分のカラダの欲求にし たがって舌を動かす。
 ある一点に触れるとカラダを震わせ、必死で声をおさえようと俺の袖を掴 んでくる。ゆっくりとそこを弄り、炎山の声が何度も出るようになったのを機 に、舌の動きを激しくさせる。
 急な舌の動きの変化に炎山は敏感に反応し、その気持ちよさが声になって あふれ出す。粘り気をおびた音が耳をうち、炎山の熱い吐息を肌で感じる。 ガタガタ震えるカラダ。ギュッと強く袖を握りしめる手。目をつむり、俺に 全てを託しているかのようだ。その態度により、俺は舌の動きを増強させ、 炎山を快楽を味わうのに没頭させた。

 唇を離すと糸がひいた。お互い手を離し、忙しく息をし、うつむく。自分 の唇についた互いの唾液を舌で拭い、炎山の頭を見つめる。
 ああ、やってしまった。抑えていたのに、やってしまった。もう、おしま いだろうか。もう顔も見たくないと言われるのだろうか。この家を出ていか ないといけなくなるのだろうか。
 発作的にカラダが動いたとしても、もう取り返しがつかない。後悔しない と決めたのだ。出ていけと言われたら出ていこう。俺は覚悟を決めていた。
 はあはあと肩を上下させながら呼吸する炎山。双脚がガタガタと震えてい る。どうにか俺は呼吸を整え、炎山の頭に手をおいた。炎山は上目遣いで俺 を見た。

「……ごめん」

 それしか言えなかった。
 沈黙する。炎山の呼吸が整ってきた。俺は炎山の頭を撫で、そのまま手を 滑らせ、頬に触れる。炎山が顔をあげる。顔が赤い。
 さらに指を滑らせ、唇に触れる。唇で感じた柔らかさとは違った柔らかさ を指で感じる。
 じっと炎山は俺の目を見つめてきた。半開きのくちは俺を待っているかの ように見えた。だが、俺は何もしなかった。
 手をはなし、その場を去ろうとした。刹那、炎山が抱きついてきた。腕を 背中にまわし、ギュっと抱きしめてくる。カラダをピタリとくつけ、頭を俺 の胸に埋める。炎山の心臓の音がきこえた。バクバクと早い。俺と同じだ。 俺は炎山の髪を触り、炎山の背中に腕をまわし、抱きしめた。

「ごめん」

 それしか言えない。

「謝るな、ライカ」

 炎山はそう言ってくれた。
 俺はさらに力強く抱きしめた。

 これが俺の片思い終了の日の出来事だ。


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