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ジャス炎ジャスミン×炎山

治癒させないクスリ


「ジャスミン」

 炎山にそう呼ばれた。ドキリと胸が跳ね上がる。炎山の声が好き。その好 きな声で自分の名前を呼ばれたのだから、心臓の鼓動は激しく音をたてて速 くなる。

「何? 炎山」

 ちょっと来てくれと手招きされる。あたしは炎山のところへ行き、小首を かしげて炎山を見た。炎山はさっと手をのばし、あたしの額に触れる。急な ことなので硬直してしまう。
 炎山ガ……炎山ガおでこに、おでこに、おでこにさわ、触ってル……!  ただでさえ熱い体がさらに熱を上げる。どうしよう。顔が真っ赤になってい るだろう。そんな顔を炎山に見られるのは、恥ずかしい。あたしは伏し目に なる。

「やっぱりな。熱があるようだ」

 それはそうだ。炎山に触られたのだから熱ぐらいでる。炎山は手をはなし じっとあたしを見つめてくる。あたしは恥ずかしくて目をそらす。

「ジャスミンは漢方作りの名人だろ? 風邪薬、作れないのか?」
「な、そんなことナイネ! 風邪薬ぐらい、チョチョイノチョイネ! あた しをなめてもらったら困るのネ」

 あ。怒ってしまった。せっかく心配してくれたというに。分かっているけ ど、一度怒ってしまったからなかなか簡単に落ち着くことができない。

「炎山!」
「な、なんだ。何をそんなに怒ってる」

 急な怒声に炎山は驚き、おろおろしている。もう、やけくそだ。あたしは 炎山の顔にぐいっと自分の顔を近づける。

「な、なんなんだ。悪かった、ひどいこと言ってわる」

 炎山の口止めとして頬に接吻を落とす。柔らかい。男の子なのに、こんな 柔肌なのか。あたしより柔らかいのだろうか。それはなんだかにくい。そし て、うらやましい。
 あたしは顔を離し、炎山を見つめる。見つめるというよりも、睨む。炎山 はくちを緊張させ、双眸を見開いてあたしを見ている。
 あたしはにかっと一度笑うと舌をだしてべーっとした。ふん。炎山を驚か せて、そして、あっかんべーできて満足。

「……アハ。心配しテくれテありがとネー」

 にかりと笑い、顔の近くで手を小刻みに振る。あたしは逃げるようにその 場から逃げる。
 自分の部屋にかけこみ、バタリと音をたてて扉を閉める。はあ、と安堵の 息をはき、スルスルと扉に背を預けながら座り込む。
 熱だからってクスリに頼ったらダメよ。免疫力が落ちる。漢方はクスリと は違うけど、こういう風邪は自分の力で治すって決めてるの。そう言いたか ったけれど、一言もかすることなく戻ってきた。怒らず言えばよかったのに。
 まあ、すんだことをクヨクヨ考えても仕方がない。そうだ、大好きな炎山 のほっぺたにキスできただけでも報酬だ。よくやった、自分よ。
 ……あ。そうか。あたし、しちゃったんだ。自分で自分の唇に触れる。

「あらー? ジャスミン、顔が真っ赤よ? 熱、悪化したの?」

 メディが顔をのぞきこんできた。あたしはにかりと笑って、答えた。

shi、悪化しタヨ」

 どうりで赤いと思った。そう言ってメディは笑った。


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