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熱炎熱斗×炎山

子供じゃん


 まぶしい日差し。さんさんと輝く太陽。太陽を見ようと手をかざし、空を 仰ぐ。強い光を放つ太陽は真っ白く、目に痛いトゲを出して空の青々さを強 調する。顔をそらし、目をつむる。太陽の残像が真っ暗闇を照らす。ひゅる りと風が吹けば、汗ばんだ肌は涼しさを感じる。
 今日もまた、暑い日が続いている。外だけは。建物の中へ入れば暑さなど 感じることはできない。クーラーはガンガンと効き、どちらかというと寒い のかもしれない。建物の中にいることの多い炎山にとって、炎天下での行動 はたまらない苦痛だった。
 そのたまらない苦痛を今、受けている。もあっとした空気が炎山を包む。 額にへばりつく汗を手の甲で拭う。きょろきょろとあたりを見わたし、あい つの姿を探す。見つからない。
 まったく。誘ったのは光、お前だろう? それなのに何故、このオレがこ の暑い中、待たなくてはいけないんだろうか。はあ。
 炎山は腕を組み、壁によりかかる。目の前をたくさんの人が行き来する。 夏というだけあって、露出度の高い人が多い。汗のせいで肌が特有の光沢を 見せている。額の広く、汗っかきな者はハンカチを片手に、何度も額を拭い ながら歩いている。日焼けをとことん嫌っているのか、全身を黒の服で隠し、 さらにはサングラス、手袋、日傘をさす者も居る。見苦しいな。炎山は思っ た。
 ふと、視線を遠くにやると、熱斗の姿が目に入った。熱斗と目があう。熱 斗はにこりと笑み、大きく手を振って炎山のもとへ走った。

「ごめん、待った?」

 コクリと炎山はうなずく。熱斗は微苦笑を浮かべる。

「そっか。うん。暑い中、待っててくれて、ありがとな」
「フン、次はないと思え」
「またまた。はは。本当、ありがとな」

 熱斗は、にかっ、と白い歯を見せて笑う。炎山もつられて笑む。
 走ってきたのか、熱斗はしばらく肩を動かして呼吸をした。ほてった頬に 汗が流れる。こんなに暑いのに、バンダナは外さないようだ。顎から、汗が 落ちる。汗で髪が濡れている。拭いてあげたかったが、タオルを持ちあわせ ていなかったのでできなかった。

「で、水着、持ってきた?」
「いや……持ってきてないが」
「えー!」

 熱斗がオーバーリアクションをする。なんで持ってこないんだよ、とぺし ぺし炎山の腕をたたく。泳ぐのは好きじゃないと答えると、熱斗は頬を膨ら ました。感情表現が豊かな熱斗だからこそ、その怒った顔ができる。怒って る、という感情を相手に伝えつつも、相手を傷つけない怒り顔だ。

「せっかく海かプールに行って、泳ごうと思ったのに」
「夏の海もプールも好きじゃない」
「どうして?」

 熱斗は炎山の顔をのぞきこんだ。

「人が多いじゃないか」

 さらりと炎山は答えた。いつもの白い顔が、暑さによって火照っている。 赤みを帯びた肌は、なんだか色っぽい。
 はあ。熱斗はためいきをつき、額に手をあてる。そうだ、炎山はそんなや つだった。熱斗はゆっくり顔を左右に振る。がっくしと肩を落とし、空を仰 ぐ。飛行機雲が一筋、見えた。明日も晴れか。カラッとした夏の方が、じめ っとした夏よりもいい。熱斗は雲から炎山に視線をもどす。
 炎山も暑そうに汗をかいている。首筋を這う汗が光を浴び、どこかなまめ かしく光を反射する。熱斗はゴクリと唾を飲み込んだ。
 夏って、人をこんな風に色気づけるよなあ。熱斗はもう一度、空を見あげ ながら思った。
 炎山は夏が嫌いだ。暑いからだ。そして、怠いからだ。夏の暑さは人の集 中力を奪い、倦怠感を与える。梅雨の時期に入ればじめじめとした空気が人 の心まで雨模様にする。夏バテすればもう、ほとんど動けない。とにかく、 嫌いなのだ。
 だから、熱斗は炎山に夏を好きになってもらいたかった。大好きまでいか なくとも、夏も悪くはないなと思ってもらいたかった。今日、炎山を遊びに 誘ったのはこのためだ。夏の楽しさを教えてやるのだ。
 それなのに、出だしから炎山が泳ぐのをいやがった。運動が大好きな熱斗 は泳ぐのが嫌いだなんて信じられなかった。出鼻をくじかれ、どうしようか 考える。

「……あ、そうだ。炎山、人が多くなければ別に海、いいんだろ?」
「ん……なるべく日陰がいいな。このままじゃ溶けてしまいそうだ」
「それなら大丈夫。いいとこ、知ってるんだ」

 にかりと笑み、拳で胸をどんと打つ。炎山の手首を掴み、人混みの中へ熱 斗は走っていった。
 熱い、熱い太陽は歩いていく人々を天から照らす。その光は、人々から元 気を吸い取っていく光だった。



 ザザン。波の打ち寄せる音。水しぶきが崖に覆いかぶさる。キラリと黒い 岩が光る。青く深い海。どのくらい深いのか、予想がつかない。
 潮風にふかれ、髪がなびく。
 失敗したな。熱斗は思った。海辺の洞窟に連れて行こうと思ったのだが、 道が思い出せなかった。途中、道に迷ってしまい、うろうろとさまよい、ど うにかここまで来ることができた。が、炎山の機嫌をかなり損ねてしまった。 この炎天下のなか、何も飲まずにひたすら歩かせてしまったもんな、当たり 前か。熱斗は上手くやることができない自分に嫌悪をおぼえた。
 炎山の横顔を見る。じっと遠くの方の海を見つめている。怒っているだろ うか。はあ。オレってダメだな。だいぶ日が暮れてきてる。遅めに待ち合わ せしたのが悪かったな。そして、ここまで来るのに時間をかけすぎたのが悪 かったな。これでよけい夏を嫌いになったらどうしよう。熱斗はしゃがみ、 海の音を聞いた。
 プールバックを地面に置く。全然ダメ。オレ、何やってるんだろう。どう したらいいんだよ。熱斗は炎山に気づかれないようにそっとため息をついた。

「……なあ、炎山」
「なんだ」
「楽しい?」

 炎山は答えなかった。ただ、じっと海を眺めている。何も答えてくれない、 この沈黙は熱斗にとって大変苦しいものだった。
 熱斗は考えた。

「……あ、そうだ。これからが本番だぜ。今から、うんと楽しいところに連 れて行ってやる」

 熱斗は立ち上がった。炎山は熱斗を見た。

「ごめんな、疲れさせて。本当、次は絶対楽しいから。本当に。オレを信じ て一緒に行こう。な?」

 熱斗は炎山の目を見つめた。炎山はコクリとうなずいた。熱斗はにっこり と優しく微笑み、炎山の髪の毛をぐしゃぐしゃにかきまわした。炎山は微笑 した。
 夕焼け空がキレイに見える頃、目的地に近づいてきたのが分かった。大き な坂が見える。あの坂を越えれば、炎山に見せたいものを見せることができ る。熱斗は炎山の手首を握り、走った。建物と建物の間から見える沈みかけ の太陽の光が眩しい。

「坂のぼれば、すぐだぜ」

 熱斗はそう言うと、手をはなして、勢いよく走り出した。炎山も遅れまい と走った。傾斜が急で、通常よりも脚に負担がかかる。熱斗は後ろを振り向 いた。はあはあ喘ぎながら炎山が走ってきている。熱斗はしばらく待った。 炎山が熱斗の横を走りすぎると、熱斗は炎山の背中を後ろから押した。炎山 は顔を横にし、熱斗を見た。

「坂なんて、勢いでのぼっちまおうぜ」

 炎山はコクリとうなずいた。
 坂の上に近づくと、足音が重くなる。どうにかそこまで着き、二人は地べ たに手をついて、座り込んだ。何度のぼってもキツイな。熱斗は汗を拭いな がら思った。
 太陽はだいぶ下がり、夜の淡い紫色が空のオレンジを追いやっていた。先 ほどまでオレンジ色に染まっていた町が、色を失いはじめる。
 熱斗は呼吸を整えると炎山の手を持って、炎山を立たせた。そして、指を さした。坂の下に広がる、屋台の列を。

「わあ……」

 無邪気な声色で炎山は感嘆した。ゆるやかな坂の向こうには数え切れない ほどの屋台が建ち並んでいる。たこやき、おこのみやき、わたあめ、くじび き。他にもたくさん、変わった店もたくさんあるだろう。まだ、店に明かり はついていないが、太陽が完全に沈めば、テレビや何かで見るような、あの 祭りの姿が表れてくるだろう。炎山は口角をにっとあげ、くちを開けながら、 目をキラキラとさせながら今見える光景をしっかり味わった。
 その様子を見て、熱斗は嬉しくなった。

「光、行こう。食べよう」

 炎山が熱斗を見、行こう行こうと急かす。熱斗は炎山の額の汗を指の腹で 拭ってやると、「競争」と行って走りだした。炎山は慌てて熱斗の後を追っ て走る。
 のぼり坂に比べて、くだり坂を走るのは楽だった。だが、思った以上にス ピードがつき、カラダが斜めになるので、前へ転倒しそうになる。現に、熱 斗が一度転けた。転び方が上手だったのか、それともカラダが柔らかかった のか、かすり傷一つ程度ですんだ。
 平坦な道に着き、熱斗は炎山の肩に腕をやる。顔を近づけ、にこりと笑う。 熱斗の整わない呼吸が炎山の首にあたる。炎山は前髪を掻き上げる。涼しい 風が吹き、からだの熱を冷ましてくれる。着物を着た小さな女の子が、二人 の横を通り過ぎる。

「じゃ、まずは神社にご挨拶に行かないとなー」
「屋台は?」
「大丈夫。まだ開いてないところもあるから、先に神社に行こうぜ。とりあ えず、最初は品定め」

 無邪気な笑顔を見せると、熱斗は真っ直ぐと前に進む道路を歩いた。炎山 を気遣って、少し遅めに歩いた。
 炎山はあたりの屋台をきょろきょろ楽しそうに見ている。楽しそうな炎山 を見るのは屋台を見るよりもずっと楽しかった。
 ちょっと自分が違う屋台を見ていると、裾をひっぱられ、「あれ、何だ?」 や、「美味しいのか?」「後で食べような」など、楽しそうに話しかけてき た。夏の間はどうにも炎山の楽しそうな姿を見ることができない。ので、久 しぶりの楽しそうな炎山に熱斗は嬉しくなった。自分がこんな楽しいところ に連れてきたから炎山は楽しげなんだぜ、と少し誇らしげでもあった。
 すっかり、日が暮れ、神社についた。小銭を投げ入れる。

「いくらいれるんだ、これは」

 炎山が熱斗にきく。

「良いご縁があるように115ゼニーいれるんだぜ」

 そうか、と言うと炎山は115ゼニーを賽銭箱に丁寧にいれた。熱斗のギ ャグに気づかなかったので、熱斗は少しさびしかった。
 手を胸の前で音を立てて合わせ、頭を下げる。

「で、どうするんだ?」
「んーお願い事とか? あ、お礼とか言うのも、いいんだぜ」

 炎山は目をつむって、ボソボソとつぶやきだした。熱斗は何を言っている のか聞こうと耳を澄ました。が、聞こえなかった。諦めて、熱斗も目をつむ る。願い事はもちろん、炎山が少しでも夏を好きになること。

「炎山、なんて言った?」
「ん……光に言うことではない」
「ケチだなー」

 フン、と炎山は笑った。
 しばらく立ち話をし、神社を出る。屋台に明かりがともり、客の楽しそう な声が場をさらに明るくする。美味しそうなにおい。すれ違う人が手に持つ ものに目がいく。あれ欲しいなあ。あれ食べたいなあ。どこで売っているん だろう。
 おいしそうなにおいや、物につられて自然とからだが引っ張られる。

「ひかりっ」

 熱斗は慌てて振りかえる。いけない。炎山を忘れてた。今日はオレが楽し むわけじゃなくて、炎山に夏を好きになってもらうために来たんだ。熱斗は 急いで炎山のところへ戻り、おいていってゴメンと謝る。
 気づくのが早くてよかった。姿が見えないぐらいにはぐれてしまったら、 よけい夏が嫌いになるだろう。誰かと一緒に楽しく過ごすのはいいが、はぐ れて一人さびしく屋台を歩くのは胸が痛い。熱斗は祭りに来たとき、一度だ け両親からはぐれたことがあって、悲しい思いをしたことがあった。その時 の思いを炎山にさせたくないと思った。

「人、多いな」
「あ……そうだな」

 今気づいたように炎山は返した。熱斗は炎山が人の多いところが嫌いなの を思い出した。失敗したかな。熱斗は炎山の顔色をうかがう。嫌そうな顔は していない。屋台を見るのや、祭りの雰囲気をあじわうのに頭がいっぱいで、 そんなことは忘れているようだった。熱斗はほっとした。

「はぐれないように、ほら、手」

 熱斗は炎山に手をさしだす。

「え……こんな所で?」

 炎山はまわりの人を見る。

「手、首。ならいいんじゃない?」

 微笑みながらそう言うと、炎山はコクリとうなずき、手をだした。熱斗は 炎山の手首をつかみ、炎山のペースに合わせて歩いた。
 たこやき。わたあめ。焼きとうもろこし。コロッケ。ヨーヨーづり。金魚 すくい──熱斗は一匹すくえたが、炎山はほとんど失敗した。熱斗の金魚を 欲しそうに見ていたので、熱斗は炎山にあげた。炎山は嬉しそうにビニール の中で泳ぐ金魚をしばらく眺めていた──にくじびき。くじは当たらなかっ た。炎山は当たった。大きなピンクのかわいいクマのぬいぐるみ。それを当 てたのだ。炎山は複雑そうな顔でそれを受け取った。

「大きい……。これじゃあ、食べ物を持てないじゃないか」

 炎山はクマのぬいぐるみの頭に顎をのせる。熱斗は笑う。クマのぬいぐる みはふわふわしていて気持ちよさそうだった。

「あ……あれ、あのウインナー食べたい」

 炎山は顔でウインナーを売っている屋台を示した。熱斗はその屋台を見る。 けっこうな列ができている。そんなに美味しいのか。待つの嫌だな。だけど、 炎山のためなら。熱斗はそう思って列に並んだ。
 やっとのことで自分の番になり、ウインナーを二つ注文する。
 品を受け取り、急いで炎山のもとに戻る。

「遅い」
「だって、あの行列だぜ? まあ、怒らず、ほら、行列のできるウインナー」

 熱斗は片方のウインナーを炎山に向ける。

「ぬいぐるみで持てない」
「じゃ、あーんしな。食べさせてやるよ」

 炎山は言われたとおりにくちを開けた。熱斗はそこにウインナーを近づけ る。ぱくりと炎山はくちを閉じ、ウインナーをかみ切る。もぐもぐさせ、飲 み込む。

「あ……美味しい」
「ホント? どれどれ」

 熱斗は炎山が食べたウインナーを食べた。肉汁がくちの中で広がる。美味 しかった。炎山は熱斗を睨んだ。

「オレのウインナー食べたな」
「あーごめん。んじゃ、オレのやるよ。オレも食べたいから、くわえて食べ たら?」

 熱斗はもう一度、ウインナーをかじる。

「そんなことしたらはしたないだろう」
「食べ歩き自体はしたないじゃん。炎山、祭りの時はいいんだぜ。ほら、く ちあけな」

 炎山はウインナーをくわえた。噛もうとすると、ウインナーにささった棒 が上下した。普段見ることのできない炎山の姿に熱斗は笑った。炎山はウイ ンナーをくわえたまま、怒った。あまり迫力がなく、逆におかしかった。熱 斗はさらに笑った。
 そのようなことを繰り返しながら、出発点に戻ってくる。炎山の腕にはあ の大きなクマのぬいぐるみの他にたくさんのぬいぐるみがくわわっていた。 何をやってもぬいぐるみしか当たらなかった。食べ物関係は全て熱斗が持っ ていた。もちろん、ゴミもだ。

「っはあ。食ったくった」

 熱斗はお腹をさすり、ぺろりと唇を舐める。振りかえると楽しげな世界が まだそこに存在していた。

「どう? 面白かっただろ。夏祭り。この時期にやるんだぜ。春とか、秋と か、冬にはない行事だぜ? 夏もいいだろ?」

 楽しげな祭りを背景に、炎山の姿。いつもあの機械だらけの無機質な世界 に居た炎山が、こんな人間味溢れた場所に居る。何か、不思議だった。
 直線、直角、平行、垂直。四角形、同じ形の連続。そんな空間ばかりに居 たら、何もかもが麻痺してしまうんじゃないか。
 炎山はにこりと笑った。

「祭りは楽しいな」

 それでも、やっぱり何かを楽しいと思う感情は働いているようだ。例え、 人よりそれが鈍くても、そう思えるのは幸せで、そう思わせたことができた のも幸せで。
 熱斗は頭をかき、にっと笑う。わかんないや。難しいこと。

「夏、好きになった?」
「それとこれとは別だな」

 そんなこと言っちゃって。熱斗はそう言うと肘で炎山の腕を小突いた。
 笑いあう熱斗たちの後ろで、みんなも同じように楽しそうに笑っていた。

「そういえば、炎山は神社でなんて言ったの?」

 熱斗はもう一度きいてみた。

「……楽しいところに連れてきてくれて、ありがとうって」
「え?」

 ばんっ。
 大きな破裂音がきこえる。とっさに空を見あげると、花火が空に咲いてい た。次に、二つの花火が空に映り、落ちていく。そして、二回連続の破裂音 がきこえる。
 炎山の言葉はその破裂音によって消えた。なんとなく熱斗の頭の中には届 いたが、それがどういう意味かを考えるまでには至らなかった。熱斗は炎山 を見た。くちを開けて、懸命に花火を見つめていた。
 オレより子供っぽいんじゃないの、実は。熱中する炎山を見て、熱斗は思 い出した。
 自分もパパとママと一緒にここに来て、三人で花火を見た。オレは花火を 一生懸命見ていたけど、パパとママはにこやかにオレを見ていた。なんで花 火を見ないのと聞くと「熱斗が嬉しそうな顔をしていることが、パパとママ にとっての花火なんだよ」と言ってた。もしかして今みたいな気持ちだった のかな。
 炎山がオレを見た。

「花火、見ないのか?」
「ん……炎山がオレの花火だよ」

 パパが言っていたことを言ってみた。

「ばか。キレイだから見ろよ」

 そう言うと炎山はまた空を見あげた。花火がにぎわう祭りの中へ落ちてい く。熱斗も空をみあげる。
 確かに花火はキレイだよ。でも、楽しそうに花火を見ている炎山の方が、 ずっとキレイだぜ? 
 花火が空に現れる。音が鼓膜をたたく。
 なあ、炎山。知ってる? オレもパパにそう言われたとき、そう答えたん だぜ? 花火キレイだから花火見たほうがいいよーって。
 オレら、もしかしたら似てるかもな。
 炎山の髪をぐしゃぐしゃにした。そしたら、炎山がオレの服のそでを握っ た。

「ありがとう」

 花火がまた、空へと向かって飛んだ。


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