2.とうひ
物事の当否なんて、わからない。そういうことを言う人が世の中にはたく さんいる。だが、わたしはそうは思わない。 以前、男に遊ばれた。この当否は? いいことか。それともよくないこと か。ほとんどの人はそれはよくないことだ、と答えるだろう。 だが、ここが重要なのだ。「あーあ、最悪」で終わらせてはいけない。も う男なんて信じられない。そう思ったらその時点で終わりだ。ここで、こう 思ってやらなくては。今回の件はわたしにとってプラスになる出来事だった。 今回のおかげでわたしは一つ、成長することができた、と。 ここできちんと反省するのだ。自分のどこが悪かったか、原因は何か、と。 そうすれば今度はもう遊ばれたりしない。ほら、立派な勉強になった。よか ったことだったのだ、それは。その出来事によって、わたしは学ぶことがで きたのだ。 世の中のほとんどはいいことだ。いいことばかりなのだ。どんなに自分に とって悪いことだったとしても、それは自分を成長させるために必要なこと だったのだ。振り返ってみてごらん。それでどこか、自分が成長したのでは ないか。何かを知ったのではないか。自分の心に正直なれたのではないか。 現実逃避なんていけない。ちゃんと前を見て歩かなければ。前を見ていな いと壁にぶつかったり、穴に落ちたり、道に迷ったりするだろう? ちゃん と進まなくては。後ろに戻ってどうする? 過去を見るのはもうやめて、未 来を見るんだ。いやな過去なんかを見るより、ずっと楽しいはずだ。過去の 栄光に浸るより、未来の栄光に向かって夢見る方がずっと楽しいはずだ。 「そうやねえ、確かにそうだよねえ」 テレビを見てそう思った。哲学番組。何かの思想を電波にのせて日本中に 発信している。今回のテーマは当否だ。世界中の人々をプラス思考にする策 略のようだ。 「こんなキレイごと言っても、世の中もうダメ。腐ってる」 彼は気分悪そうに顔を机にのせている。ゲホゲホと咳きこむ。大丈夫? とわたしは彼の背中をさする。ごめん、ありがとうと彼は言い、また咳きこ む。とてもきつそうだ。 「俺、喘息やろ。喘息の当否なんてあるか? ないよな。苦しいばかりでろ くに動けない。まあ、激しい運動しなくていいのはいいことかも。はは」 彼は笑う。わたしは考える。本当にそうかな。喘息だって、いいところ、 あるはず。喘息みたいな病気自体はよくないと思うけれど。だけど、それに よって人は何か、するんじゃないかな。何か、変わるんじゃないかな。何か ……。あ、わかった! 「分かったよ、喘息のいいところ!」 え? と驚いた顔で彼はわたしを見つめる。んふふとわたしは満面の笑み を見せる。何々と聞いてくるのでわたしは身を乗り出して彼に教える。 「喘息だから体を大事にしないとって、気を使うやろお? ほら、ここだよ、 ここ! 健康な人って健康だからって体に無理ばっかりさせるやん。でも、 喘息みたいに体が弱い人は喘息が出んように、悪化しないようにんて健康に 気をつけるやろお? やけん、かえって喘息の人の方が健康的ってこと! ほら、いいところ!」
彼はニッカリ笑った。そのプラス思考、好きだよと言ってくれた。わたし
はうれしかったので彼に抱きついた。細い彼だけど、頼もしい彼。
プラス思考は人生を楽しく過ごすコツですからねー。楽天家さんっていいですよねー。 |
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