02:「あ、消しといて」 「あ、消しといて」 まったく。人の心をもてあそぶのはやめてほしい。どうして俺が消すのを 頼まれなければならないんだ。いや、そういうことを頼む以前に俺が来る前 に消せばいいのに。この男は俺であそぶのがほんとうに好きだな。あいあい がさの落書き。子供じみたらくがきだ。占いなのか、まじないなのか、さて はのろいなのか。これを書く意味はいったいなんなのだろうか。自己満足? 自分の中に押しこめた思いを書きあらわしているのか? 俺はそのあいあい がさを睨みつける。光と桜井のあいあいがさ。いったい誰だ、こんなものを 書いたやつは。俺は頬を膨らませる。 「あ、また不機嫌な顔してる」 光を睨む。光はヘラヘラ笑う。ずるいやつだ。どうしてそんな顔をしてい るのか知っているくせに。どうしたらいいか知っているくせに。俺で遊んで いる。俺の反応をおおいによろこんでいる。俺はうれしくない。俺が笑顔に なるように俺で遊べばいいのに。どうして光は俺が不機嫌になるように遊ん でしまうのだろうか。 「あいあいがさぐらい許してやれよ。別に、そいつと付き合っているわけじ ゃないんだし。炎山だってそうだろ? 俺と付きあっているわけじゃないの に、そうカッカするなよ」 「光が女とつきあったら任務遂行に支障が生じるだろう」 それをきいた光は腹をかかえて笑いだした。なんだ、何がおかしいんだ。 そんなふうに笑われたら恥ずかしい気持ちになるじゃないか。俺はぷいとそ っぽむく。恥ずかしがっている顔を見せないために。 「かわいいなあ、炎山。素直じゃないんだから」 光は俺の頭をなでる。やさしく、あったかい。甘えたくなる。こいつなら、 心を許してもいいかな、と思える。なんとなく光によりかかる。光はそれに 応じる。 「へへ。待ってろよ、消してやるから」 光はそう言うと近くにあった大きめの石を拾いあげる。そして、そのあい あいがさを石でこすり、傷をつけて消していく。乱暴なやり方だと思った。 だけど、そうやってがんばって消している様子を見るとなんだかうれしい気持 ちになった。 ガリガリとバスケットボールのリングの柱を傷つける音がする。今日は天 気がいい。ぽかぽかしている。くもも少ししかなく、太陽の光がそのまま当た る。少しあつい。 「できた」俺は空から熱斗の方へ顔を動かす。 ニコニコした笑顔で熱斗は「ほら、見て」と柱を指さした。俺は小首を傾 げ、柱に近づく。そして柱を指でなぞりながら見る。あいあいがさを消すた めにつけられたたくさんの傷跡。ここだけ緑色じゃない。そのまま下へ指を 動かす。新しい傷を発見する。 「あっは。いつの間になあ。いったい誰が書いたんだろうな」 新しいあいあいがさがそこにはかかれていた。いったい誰が書いたのか。 俺は笑みをうかべながら光の方を振りかえる。そして、言ってやった。 「あ、消しといて」 「うわ、ひどいな、炎山」 光が嬉しそうに笑う。
あいあいがさってなんでしょうね……? うーん。実際にするのはわかります。 同じ傘の下で雨を防ぐ……確かにいいですね。だけど絵(記号)として表すと よくわかりませんね……。うーん。 |
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