03:「うわぁ、やっちゃったな…」 どうしよう。どうしよう。本当にどうしよう。どしたんだ、俺。何、変な 事をしているんだ? 俺のベッドに横たわる炎山を見つめながら思った。乱 れたきれいな髪が白い顔にかかる。髪も肌も繊細なのに、髪の影までも繊細。 近づけば、まつげの長さに胸を激しくうたれ、筋の通った鼻に乾いた唇にど うすればいいんだろうと思い。 ああ、もう。どうしたんだよ、俺。いつも、いつもそうじゃないか? 炎 山といると自分のペースをいつも崩されてしまう。炎山が自然体でいるとき は別にそうではないのだけど。今みたいに無防備な姿や緊張した姿を見ると、 落ちつきがなくなってしまう。 「うわぁ、やっちゃったな…」 小さくささやいた。それなのに、その声は炎山の耳に届いてしまったのか、 炎山のからだがピクリと動く。俺は胸を握られたような気持ちになった。ほ のかに動き、「ん」なんて声をもらしながらそっと顔をあげる。重そうなま ぶたが俺を睨む。まぶたの下の青い眼は辺りをみわたし、俺を見つける。 ふっと炎山が笑う。俺は目をそらす。炎山の顔を素直に見ることができない。 「光、知ってるだろう。俺は地獄耳だと」 「うわぁ、やっちゃったな…。炎山と居ると、そういう余裕なくなる」 ふっと笑う炎山が、細く見える。うすく、細い輪郭。繊細? キレイ? いや、ちがう。この不思議な細さはそれだけじゃない。もっと、深い。もっ と深い所からこの軽薄さが出ている。胸が痛む。 「で……何をやっちゃったんだ?」 ニヤリと俺を見あげる炎山。体をおこし、俺の目の前であぐらをかく。そ っと俺の顔をのぞきこみ教えて、と目で訴える。顔が近い。髪が眉が瞼 がまつげが眼が鼻が口が肌が炎山がよく見える。微細な動きも、細い影も。 胸がつぶれる。どうして炎山を見ると俺の心は乱れるんだ。なんで。なんで? ええい、やけくそだ。俺は顔を近づけてやる。 「うわぁ、やっちゃったな…」 俺がニッコリ笑ってそう言うと、炎山は口を押さえて、目をまん丸くさせ た。うつむきながら黙りこみ、そっと俺の様子を上目遣いでうかがう。俺は ふんと笑う。してやったぜ。俺の心をとことん乱したんだから、次は炎山の 心を乱してやる。 「なんで、そんなことばっかり言って、やって」 「何、また言って欲しいの? うわぁ、やっちゃったな…って」 ばかと言って炎山はぷいとそっぽ向く。ふん。俺のペースを乱した罰だ。 また似たようなことをしたらまたするからな。なんて思いながら。顔を赤く する炎山を眺めてこっそりほほえむ。 まったく。かわいい顔して。ドキドキさせるなよ。俺の寿命が縮まるじゃ ないか。あーあ、うわぁ、やっちゃったな…だよ。 「うわぁ、やっちゃったな…」 炎山は両手でじぶんの頬を覆う。ボソリと言った炎山の言葉、地獄耳じゃ ない俺だけど聞こえた。
微細 きわめて細かく小さなこと。ちょっとだけボキャブラリーが増えました。 |
||
前に戻る | セリフ30のトップに戻る | トップに戻る | 次のお題に進む |