06:「あぁ、すげえ効いた」
息を荒らくし、建物と建物の狭い隙間をのぞいていく。いったい、どこに
いってしまったんだ。俺の目の前に現れ、走って逃げていくのだから。俺は
とにかく走った。狭い隙間道を通る。物が積んであったりして本当に狭い。
まったく。手間をかけさせて。俺は舌打ちをした。
白い物が見えた。あの高さで白いと言えばあいつの髪しかありえない。や
っと見つけたぞ。こんなところまで来て。まったく、探したぜ。俺は荒い息
を整えながらゆっくりとあいつ、炎山の方へ歩みよる。心配かけて。どれだ
け探したと思っているんだ。
炎山が俺の存在にきづく。慌てて辺りをキョロキョロとみわたしている。
逃げるつもりなのか。逃げないでくれ。炎山は走って物陰に隠れる。俺はふ
うと大きく息を吐く。
「俺が悪かった。出てきてくれ」
どうしてここはこんなに暗いのだろうか。今日はすごくいい天気で明るか
ったはずだ。空を見ようとあおぐが、空はほとんど見えなかった。静か。ど
うしてこんなに静かなのか。俺の足音がどうしてこんなに響き、大きくきこ
えるのか。
「当然の、報いだろ……」
炎山の重く、ゆっくりとした口調。余韻を残しながら俺の耳元までやって
くる。確かにそうだろう。あれは断りきらなかった俺が悪かった。ここに来
たのも悪かった。本当に悪いと思っている。いつも炎山を傷つけていると思
っている。ああ、反省しているよ。言葉に表せないほどに。
「許してくれないか」
俺の声が響く。耳が痛い。炎山との距離は近づくが、はてさて心の距離は
近づいているのだろうか。俺はゴクリと息を飲みこむ。深呼吸する。炎山の
返事を待つ。ああ、この静寂の時間がこんなに苦しい物だなんて。
「許せない」
炎山との距離が間近になる。あと数十歩歩けば炎山のもとへたどりつく。
たどりついたら俺はどうしたらいいのだろうか。不安を持ちながらも俺は一
歩一歩踏みしめて歩く。
とうとう着いてしまった。物陰に隠れる炎山の後ろ姿が見える。足をなげ
だして座っている。俺はゆっくり炎山の隣りに行き、しゃがむ。そして、炎
山の顔にかかった髪を耳にかけてやる。顔をチラリとのぞく。怒っている。
「そんな、怖い顔、しないでくれ」
そう言うと炎山は顔を動かさず、目だけで俺をギロリと睨んできた。体中
が一瞬震えた。心臓が一瞬止まったかと思った。体が一瞬動かなくなった。
呼吸が一瞬止まったのかと思った。本当にその目は俺の心をグサリと刺した。
あぁ、すげえ効いた。
「光、反省なんか、していないだろう?」
「まさか。しているぜ」
空気が痛い。俺は努めて笑顔をつくる。炎山は俺をじっと睨みつける。こ
こで負けたらいけない。俺は笑顔を保ち続ける。
「俺は炎山のこと、裏切ったりしたことないだろ? その逆ばっかりだった
じゃん。俺さ、炎山を笑わせようと必死なんだ。伝わらないかな、そんな気
持ち」
炎山が眉間にしわをよせ、くちをむぐむぐさせる。目をそらし、地面を見
つめる。俺を見あげる。その顔は怒った顔じゃなくていつもの無表情。
「俺ってダメかな。へらへらしてて、口数も多いし。俺も炎山みたいに寡黙
な方がいいかな。必要なこと以外はくちにしない」
お互いに無表情で地面を見つめる。今の沈黙はあまり苦しくなかった。な
ぜだかわからないけれど、痛くない空気だった。
「光はへらへらしているし、口数も多い。ああ、分かっている。光のそんな
所が俺は好きだ。だから、無表情でいるのはやめろ。おしゃべりでいろ。じ
ゃないと光と居たら苦しくなる。笑顔でたくさん話してくれる光と居るとす
ごく楽しいんだ。だから、俺みたいにならないでほしい」
炎山を見ると耳が赤くなっていた。俺は笑みをうかべ、炎山の頭を撫でる。
うれしいこと言ってくれたな、ありがとなとお礼を言う。フンっと炎山は照
れながら笑う。炎山が自分の正直な気持ちを言ってくれて俺はすっごくうれ
しかった。炎山が俺のことをそんな風に思っていたなんてしらなかったのだ。
ああ、また俺は炎山から離れられなくなった。素直にそんなことを言うから。
ほうっておけない。
「ほら、立って。遊ぼうぜ、これから。なんだかんだ言って、俺、約束守っ
ちゃったみたいだし」
俺は立つ。炎山に手をさしだす。炎山は俺の手をつかみ、立つ。ニッコリ
と炎山が笑ってくれた。俺もつられて笑う。
「もう俺は炎山から離れられなくなったぜ。もう絶対逃がさないからな」
「ほう、それはおもしろいな。じゃあ、俺は逃げてやろう。追えるものなら
追ってみろ」
「よっしゃ、その勝負受けるぜ。死んでも追いかけてやる。炎山の全てを捕
まえるまでな。覚悟しておけよ?」
「フンッ。それは楽しみだな。いつまでかかるだろうな」
「一生無理だろうな」
「ほう……じゃあ一生追うんだな?」
「もちろん。一生追わせていただきます」
「フンッ」
炎山がうれしそうに笑ってくれた。
好きっていうのは普通の好き嫌いですよん。友達のこういう性格が好きっていう、その好きね。07とリンクしてます。
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