●●● セリフ30のお題をロックマンエグゼで
07:「ひどい、ひどいよ…」

 そろそろ来るか。電信柱に寄りかかり、空を見あげる。いい天気だ。今日 は何をするかな。何を食べるかな。何処に行こうかな。色々考えてみる。

「炎山様、連絡が入っております」

 ブルースの声をきき、PETを取り出す。ロックマンから、つまり光から。 ろくに連絡をよこさない光からの連絡だなんて、おかしい。これは絶対いい 連絡じゃない。俺のイヤな予感は的中する。見たくない。見たくないけれど、 見なくてはならない。オート電話をしてくれればいいものを。ロックマンを よこすなんて。ますますいい連絡じゃないのが分かる。俺はロックマンから きた連絡内容を見る。
 ……何? 急に? 急にキャンセル? ドタキャンってやつか?
 ……断れない用事ができた? そんな、急に。ちゃちゃっと切り上げて遅 れてでもいいから来ればいい。なのに、今日一日ダメなのか?
 何故だ? 俺は忙しい中、こうやってわざわざ時間を割いて来ているのに。 いくらでも時間があるような光がこないなんて。そんなに大きな用事なのか?
 さびしいな。

「ブルース……フンッ、久しぶりの休日だ。久々に色々するか?」
「そうですね。たまには息抜きでも」

 じゃあ、戻るか。フフンと笑い、PETをしまう。さて、帰宅したら何を しようか。ブルースのパワーアップ? そうだな。そろそろブルースのレベ ルアップさせるべきか。では、何か買っていくか。フンッ、たまにはこうや って過ごすのもいいかもしれないな。
 向こう側の歩道に目を向ける。ピンクの髪の女にツンツンヘアーのバンダ ナをした男。見覚えがある。ものすごく見覚えがある。あれは……桜井と。
 信号が青になる。俺は走って横断歩道をわたる。そして、その二人の前に 出る。ああ、やっぱり。やっぱりな。見覚えあると思ったんだ。これだった ら見覚えがあるはずだ。光だから。

「あ……炎山……」

 ばつの悪そうな顔をする光。光の隣りは桜井か。
 ああ、どうせ俺は桜井には勝てない男だ。俺よりも、幼なじみの桜井の方 が大切だ。当たり前だ。俺はいつも光を振り回していて、自分の都合ばかり 押しつけている。そんな俺よりも、ずっと長い間一緒だった幼なじみの方が、 いいはずだ。何故、俺はそんなことに気づかなかったのか。

「ひどい、ひどいよ…」

 言葉がこぼれる。ああ。言ってしまった。もう、後には戻れない。どうす るか。ここで光をうばったとしても、きっと意味はないだろう。逆効果にな るかもしれない。なら、ここはいさぎよく去るべきか?
 俺は光をギッにらみ、背中を向けて走った。



 あれ……道路の向こうの白い頭の男、炎山か? うわ。ヤバイ、どうしよ う。見つかったらどうなるか。だからここはいやだと言ったのに。メイルが ここがいいと何度も言うから来てしまった。
 とりあえず、メイルを道路側に移させよう。俺より背が低いからあまり意 味がないかもしれないが、俺がばっちし見えるよりかはいいだろう。

「ねーえ、どこ行こうか。あたし、パフェ食べたいな」

 パフェか。炎山が好きなんだよな、パフェ。よく食べてたよなー。バナナ パフェ、イチゴパフェ、ミックスパフェ、ビッグパフェ、パーフェクトパフ ェに……ああ、本当にたくさんのパフェを食べたよな。数えだしたらキリが ない。
 それで炎山がよくほっぺたにクリームつけるんだ。それに気づかず、一心 にパクパクパフェを食べる炎山。そこがまた、かわいい。いつもの冷静で大 人っぽい炎山とのギャップが本当にいい。そのギャップに俺はひかれた。
 あ。メイルと一緒にいるのにまた炎山のことばかり考えていた。俺の頭は
炎山のことしか思い浮かばないのか? 俺は自分にきいてみた。うん、と俺 の頭がうなずきそうで少し怖かった。

「ねえ、熱斗? 聞いてる?」
「ん? あー、きいてる聞いてる」 

 嘘をつく。メイルがパフェを食べる時はどんな感じだったか。確か、のん びり食べていた。あ、おいしいとかこの味、どうやってだすのかなーっとか ちょっと甘過ぎねとか、そんなこと言いながら食べていた。とにかくすんご く時間がかかってた。

「あ……あれって伊集院くん?」

 え? メイルの声でとっさに声が漏れる。ふっと横断歩道を見たときには 炎山が勢いよくこっちに向かって走ってくるのが見えた。俺は固まってしま った。怖い。どうしよう。俺、どうしよう。俺は炎山に釘づけになった。
 目の前にざっと現れ、はあはあ肩を上下させ、拳を握り、俺をじっと見つ める。……いや、睨んでる。こんなに怒っている炎山の顔を見たのは久しぶ りか。

「あ……炎山……」

 どうしよう。炎山、すごく傷ついただろう。俺、炎山のこと、すごく傷つ けてしまった。何を言っても許されない気がした。
 ずっと楽しみにしていたのに、断った理由はメイルと遊びにいく用事のせ いでした。そんなこと、口が裂けても言えないのに、その状況をもろに見せ てしまった。内緒にしていたことによって、そらに怒りが増すだろう。
 炎山の顔が赤い。目がうるうるして光ってる。歪んでいる。炎山のキレイ な顔が、歪んでいる。俺が壊してしまったのだ。あのキレイな顔を。

「ひどい、ひどいよ…」

 そう言って炎山は背を向けて走っていった。足が地面とくっついて離れな かった。どうしたらいいのだろう。何もうかばなかった。

「熱斗、何してるの! はやく追いなさいよ!」

 メイルのその声により、鎖がとれる。自由になった足は勢いよく炎山に向 かって走り出した。
 メイル、ごめん。そしてありがとう。俺は炎山の姿をさがす。


訂正前よりだいぶ柔らかくになったかな。訂正前はけっこう激しかったのでマイルドになってよかったです。05とリンクしてます。
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