08:「おーおー、やれるもんならやってみろよ」
「……好き。好き! 大好き! 自分の考えをちゃんと持っていて、そしてそれをきち んと言えて……。芯のある、あなたが好き。あの時、優しくしてくれたでしょ? あの ね、あたし、すっごくうれしくてね……。あなたのすごさ、改めて知ってね、前以上に 好きになったの。あなたの笑顔が見たい。あなたがもっと幸せになるといいな。あなた の考えをもっと知りたい。様々な気持ちが溢れたわ……。ねえ。一緒に幸せになろう。 今以上の幸せ、手に入れようよ。あたし、あなたと幸せを深めたいわ……」 なんだ、このドラマは。女が一方的に話しすぎ。美化しすぎ。そしてなんでこんなド ラマを俺たちは見てるんだ。光家のリビング。ソファーに炎山と並んで座り、テレビを 見ている。 「庶民は……こんなのを見るのか」 「いやいや、勘違いしちゃダメだって。たまたまこれだったんだよ、チャンネルあわせ たら。見入っちゃったけど」 あ……キスした。深いの。あーあ。気まずいよ。抱きしめあってさあ。こんな時間帯 にそんなの放送しないでくれ! なんて思った。ドキドキしながら炎山の様子をチラリ とのぞく。くちをポカンと開けて見入ってる。ちょっと顔が赤くなっていて、目がキラ キラ光っている。ああ、キレイ。かわいい。こんなの見るの、はじめてなのかな。仕事 仕事でこんなものを見る暇もないんだろうし。はは。かわいい。炎山の頭を撫でる。炎 山はドキッとした顔をして俺の目を見つめる。うわあ、なんだ、その目は。うるうるし て輝いていて。それなのに顔は赤く染まってさあ。 「何考えてるの?」 「……へ? え、や……べ、別に」 ニヤリと笑う。ははん。テレビ見てたから同じことされるんじゃないかってビクビク してたのか? かわいいなあ。 「キスされると思った?」 「ば、ばかあ!」 ドンと突きとばされた。はは、動揺してる。 「もう……まったく。帰る!」 「おーおー、やれるもんならやってみろよ」 目を見開く炎山。顔が暗くなっていく。俯いて寂しそうに床を見つめている。まった く。そんな態度をとらないでくれ。炎山の頭で抱き寄せギュッ抱きしめる。ドラマの展 開。炎山の脈がはやくなっていくのがわかる。ああ、炎山の呼吸がきこえる。吐息が温 かい。吐息の当たる部分が温かく、湿る。 少しはなし、お互い顔を見つめる。炎山の目がうるうるしている。紅潮した顔が罪深 い。ぽんと頭に手をのせ、髪をぐしゃぐしゃにする。キレイな髪。こんなにぐちゃぐち ゃにしても、そのキレイさを崩すことはない。潤っていて、ツヤがある。 「何……するつもりだ?」 「お、キスでもお望みかい? ドラマのような」 「ばか」 俺たちはドラマのようなことを今までしてきた。だけど、日常は全然ドラマチックじ ゃない。へへ、実際は逆かも。 たじろき、顔をキョロキョロさせる。動揺しているのか。
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